今日目指す山小屋は8合目にある「蓬莱館」だ。
標高3150mにあり、ちょうど頂上までの行程の中間地点にある。
本当はもっと上の山小屋まで行っておけば翌日の頂上までが楽なんだろうけど、「一気に頂上付近まで行くと高山病のリスクが高まる」という情報と、たいていの山小屋のチェックインが遅くても20:00で、それまでにたどり着けるのか自信が無かった。
かといって7合目の山小屋では翌日の頂上行きがさらに1~2時間余計にかかる、ということを考えると、この蓬莱館は8合目でも下から2番目の位置にあり、理想的だと判断した。
起点となる富士スバルライン河口湖からの所要時間は、休憩時間を入れないで考えると
5合目→6合目(約50分)
6合目→7合目(約60分)
7合目→8合目(約100分)
8合目の一番下までだと3.5時間で着いてしまうことになる。
たった3時間半、楽勝じゃん、と普通の人は思うだろう。
これに適宜休憩と亀歩きを考慮したとしても、まあ4時間半もあれば相当余裕をもって山小屋に到達するんじゃないか。12時半に出発すれば17時、どんなに遅くても17時半には到着できるだろう。
そもそも5合目は標高2,305m、山頂は3,776m。その差1,471m。
本日の宿は標高3,150m。直線距離ならたったの845m!
しかしこれはまさに机上の空論で、現実はそんな甘いものではなかった。
5合目を出発して最初にたどり着くのが6合目の「安全指導センター」だ。標高は2390m。
ここまでは特に険しいというほどの道でもないのでだらだらと歩いていけば誰でも問題なくたどり着けるだろう。
しかし富士山の本当の過酷さはここから次第に加速していく。
7合目まではジグザグに登山道が続いていく。
傾斜もどんどんきつくなるがそれ以上にきついのは空気の薄さだ。
ただでさえ空気が少ないところを重たいリュックがさらに体を締め付ける。
ほっておくとどんどん呼吸が浅くなる。
もう景色を楽しむなんて余裕は無い。
今回の富士登山で一番の懸念は高山病だった。
体力、筋力、精神力には自信過剰であったが、高山病にかかってしまったらもう根性論は通じないだろう。だから高山病予防には神経質になっていった。
呼吸が浅いと感じると、強制的に腹式で深呼吸を繰り返した。
亀歩きに加え酸素不足で、進行速度は激遅になる。
10m歩いて休憩、を繰り返していた。というかそれが精いっぱいだった。
これを無理に根性論で突き進むというのはそもそも無理がある。
「富士山をなめるな」というのはこういうことか。
しかしこんなのはまだ序の口だった。
よれよれの状態でなんとか7合目の最初の山小屋にたどり着いた。
ああ、これもよくYoutubeで見た光景だ。ここに泊れたら楽だったろうな。
7合目だけでも山小屋は8カ所あり、7合目の一番下と一番上の山小屋では到着までの時間も標高も全然違う。
そして問題はこの7合目から始まる本格的な岩場である。
それまでも岩場はいくつかあったが、7合目からの岩場は今までとはわけが違った。
「ここを登るのか・・・マジか・・・」
Youtube動画や写真で見るのと実際に目の当たりにするのでは全然違った。
これは慎重に行かなければ本当にヤバそうな気配が濃厚だった。
おれは体操部だったので、本来であればこんな岩場はスイスイと登れる自信はある、手ぶらなら。
現実には酸素は一層薄くなっているのに加え、一番の問題はやはり重過ぎるリュックだ。
体が傾くとそれにとっもなって重いリュックも傾くので重心も意に反して移動する。
だから岩にへばりつくように登って行かないと本当に危ない。
もし後ろに重心が行ったりしたら、リュックの重みでそのまま後ろへ落下しそうだ。
ニュースにならないだけでそういうケース、結構あるんじゃないだろうか。
子供や高齢者や女性たちだとちょっとこれは難しいのではないか。
しかしみんなこれを登ってるんだよな・・・。
そしてこの岩場が8合目までずっと続いている。
危険すぎて心が折れそうになる。
よくみんなこんなの登って来れたな。
いくつもの岩場を越え、目指す蓬莱館にたどり着いたのはもうあたりが薄暗くなった18:30頃だった。
実に6時間!たった845mの標高を登るのに6時間もかかっていた。
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