理不尽大魔王

少年野球

もうかれこれ妻と3週間ほど口をきいてない。
こいつは一体いつまで黙っているつもりなんだろう。

事の発端は私の浮気がバレたとかDVだとかギャンブルだとかではもちろんない。
そう、子供の野球なのだ。

4月から小学校に上がった息子は地元の少年野球チームに入った。
私としてはテニスをやらせて世界の錦織圭を目指させたかったが、本人が野球チームに入りたいのだからそれはそれで尊重したい。
しかし本当は近所の友達がみんな野球チームに入っているので自分も行きたいだけなのだ。

毎週土日は練習日なので、息子は朝から夕方まで練習に通っている。
まあ家でゲームをやっているよりははるかに健全だ。

息子の入ったチームは人材不足もあって、かなり弱い。
おそらく地域最弱なのではないかと私は踏んでいる。
しょっちゅう試合があるようだが、20対2とか16対3とかのスコアで負けてくる。
初めて試合を見に行った時は驚いた。
キャッチャーはピッチャーの球を度々落とし、その間にどんどんランナーがホームに帰って来る。
セカンドがファーストまでノーバンで球が届かない。
バウンドするからファーストは怖がって球をとれない。
ランナーはどんどん進む。
これは野球の試合なのか?
いや、おそらく試合以前の問題だろう。

この試合前にも何度か練習を見に行っていて、実はすごく気になっていたことがある。
まず監督はとにかく小学生相手に怒鳴り罵倒する。 
「何やってんだよ!ちゃんと構えろ!」
「いつまで同じことやってんだよ!グランド走ってこい!」
「もういい!代われ!」
「もうやめちまえ!もう帰れ!」
 いくら相手が小学生だからといって、もう少しモノのいい方ってあるんじゃないか。

と同時に、そもそもこの子たちは誰ひとりちゃんと技術的なことを教わっていないんじゃないか、と思った。
監督は野球部出身なんだろうが、他の「コーチ」たちは近所の未経験の大人たちがボランティアでやっているそうだ。
たぶん教えようにも、コーチ自身がテクニカル的なことを分かってないんじゃないか。
必ずフライを落とす子がいる。
いや、落とすというよりは、取らないのだ。
「なんで取らないんだ!前に出てキャッチしなきゃダメだろ!お前もう帰れ!」と怒鳴られる。
しかしこの子、たぶん上から落ちてくるボールが怖いんだと思う。
そしてフライの球の取り方を知らないんだと思う。
たとえばテニスだってスマッシュを打つ時にはそれなりのテクニカル的な理論とかコツがある。
球の真下に入っちゃダメとか、落ちてくるボールは加速度がついていて見かけより実際は早く落ちてくるからラケットは早めに振り出すとかその他もろもろ・・・。
たぶん野球だってそういうのあるんじゃないか。
 「たぶん」と言ったのは、私自身が野球を全然知らないからだ。

自分が子供の頃、確かに級友と野球はやったしグローブも持っていた。
しかしもともと野球には全く興味がなかったし、その面白さは今でも理解できない。
巨人が負けて不機嫌になるという人の感覚が全く理解できない。

そういえば私の通っていった高校は新設校で、入学時には野球部が無かった。
高校2年になった時、新しく野球部が出来ることになった。
しかし入部の条件は「坊主頭」にすることだった。
しかししかし・・・何名いたか忘れたが、それまで長髪で気取っていた奴らが次々と自ら「坊主あたま」になっていった。
「そこまでして野球がしたいのか」と、それはある意味感動的だった。

さて、今の息子に技術的なことを教える環境がチームに無いことは間違いない。
しかし私が教えることもできない。
知らないことは教えようがない。
そこで私はAmazonで検索すると、少年野球の技術本がいくらでもあるではないか。
フライ取り方、ゴロの取り方、バットの正しい構え方などいくらでも出ていた。

早速私はその一つを注文した。
それからDVDの『がんばれベアーズ』も注文した。

ここで話しは冒頭に戻るのだが、今回の「事件」はこれが原因だった。
「なんでこんなの買うのよ、どうせ自分で教えないくせに」
「自分で教えられないから役に立ちそうなのを子供に用意したんじゃないか」
「どうせ何にも出来ないんだから余計なことしないでよ」

なんだこのいいぐさは。
おれの行為の一体どこに責められる要因があるというのだ。

「じゃあもう野球のことは一切知らないよ。お前が全部やれ」
「ええ、そうしてくれる」 

このセリフを最後に3週間、妻は口をきかなくなったのだ。
おまけにこの夜の夕飯、妻は自分と子供の分だけマックで買ってきて、おれの分は買ってこないという反則技を使った。
こんな暴挙が許されていいはずがない。

コメント