ひったくり事件…その後

エッセイ

家に帰ると、なぜか自転車の保証書が転がっていた。
「何?これ」
「自転車買い替えたのよ」
「なんで?」「当たり前でしょ!あんな特徴ある自転車だったら覚えられてるわよ! (犯人は)近所に住んでるかもしれないでしょ! 仕返しされたらどーすんのよ!!」

妻は怒っている。
「だったら引ったくり犯、ほっとけばよかったのかよ。前からこっちに向かって来たのに放っておくのかよ」
「だいたいなんで警察なんか行ったのよ!」
「しょうがないじゃないか、おれが通報したんだし」
「老人だからって安心できないの、分かってるでしょ!!!」

それからおれたち夫婦は再び絶交状態に入った。

おれはおそらく「いいこと」をしたのだと思う。
何で怒られなければならないのだろう。
確かに三週間前の裏の住人襲撃事件は妻にとっては恐怖だったのかもしれないが、今回は人助けでもあったのだ。

翌日、なんとこの事件は朝刊にも載り、インターネットのニュースにも流れた。

おれが会社にいると携帯に電話がかかってきた。妻からだった。
「今、警察から電話があって、感謝状出したいんだって。電話くれってさ」
「もう警察には行かないほうがいいんだろ」
「勝手にすれば! (ガチャ)」

ここは怒るところじゃなくて、自分の旦那を誇りに思うとか尊敬するとか見直したとか、そういうケースじゃないのか普通。

おれは警察署に電話した。
「所長のほうからですね、感謝状を出したいということで、平日なんですけどこちらに来られませんか」
「それって写真撮ったりするんですか」
「はい、おそらく」
「それって、よくあるように新聞にその光景が載ったりするんですか」
「まあ、新聞社に投げるかもしれません」
「それは絶対まずいんです」

おれは三週間前の隣人事件のことや、妻がとにかく目立つことを恐れていることなど話した。
「そうですか。では感謝状はお届けします」

そして今日も、我が家では絶交が続いている。

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