乗鞍岳でご来光③

その他

納得のいかない朝食後、いよいよ主峰である剣ヶ峰へと出発した。
標高3,026m。
現在いる畳平バスターミナルが2,702mなのでその差は約300m。
というと「なんだあっという間じゃん」と思うかもしれないがそれは素人の考えで、ただ直線距離を300m移動するわけではない。
富士山では標高差700mを移動するのに5時間半もかかったのだ。
しかし今回の標高差300mはなんと1時間半で行けるのだという。
それゆえ「日本一簡単な3,000m級の高山」と呼ばれており、家族連れや子供、初心者でも3,000m級の登山が気軽に体験できる、というのが乗鞍岳の「売り」でもあった。


天気は快晴。まさに登山日和だった。といっても別に山登りが好きなわけではない。
2年前、せっかく富士山に登ったのに、その道中があまりに辛くてその絶景を全然楽しめなかったので、改めて3,000m級の山に「楽」に登り、その絶景を堪能したいと考えたわけだ。

宿に重たいものは全部預け、極力軽装にして出発した。

最初は確かによく整備されたなだらかな道が続いた。
途中、雲海の白と青空のコントラストが見事だった。自然というのはやはりスゴイ。


そして「肩の小屋」という山小屋に到着した。
ここがどうやら剣ヶ峰に登るための本当の登山口のようだ。
まあ1時間半なんて楽なもんだ。高尾山に登るようなもんだろう。



今までがなだらかで整備された道だったのでこの調子であっという間に3,026mの頂上に行けるものと思っていたが甘かった。
肩の口小屋から先はいきなりがれきだらけの歩きにくい道に変わった。そしてそれはすぐに延々とつながる岩場に変わった。
その岩場だって決して「楽」な岩場ではない。そして長い。
これ、いつまで続くんだろうと思っていたら、なんと頂上までずっと岩場だった。
これのどこが「日本一簡単」なんだ。どこが「家族連れでも」なのだ。どこが「初心者向き」なのだ。
昨日1日高所にいたので空気の薄さというのは富士山ほどは感じなかったが、登山道はそれなり過酷さがあった。
これはとても1時間半では頂上まで行けないだろう。
そもそも3,000m級の山がそんなに簡単に登れるわけがないのだ。

登っていてふと気がついたのだが、今回もほとんど絶景など楽しめてない。その理由が分かった。
足元が岩場で危ないのでずっと下を見ながら登っているからだ。これでは景色なんか見てる余裕はない。こんなところで転んだら痛いとか恥ずかしいでは済まないだろう。



約2時間半でようやく頂上手前まで来た。目測では距離にしてあと100mくらいだろうか。
頂上の鳥居が見えてきたが、さらに急角度で続いている岩場を見るとなんとも心が折れそうだった。
結局最後まで登り切りはしたが、剣ヶ峰の頂上というのは想像と違ってものすごく狭く、人もごった返していてとても達成感を味わうという雰囲気ではなかった。

なのですぐに下山を始めたが、下山ルートは富士山と違い、登ってきた道をそのまま下っていく。
つまり今来た岩場を降りていくことになる。岩場は登りよりも下る方が危ない。足も疲れているので踏ん張りもききづらい、
時間とともに人も増えて来るのでますます歩きづらくなり、やっぱり時間もそこそこかかる。

やっと肩の小屋に戻った頃にはヘロヘロで「もう登山はいいや」という気持ちになっていた。
本当はこの後、木曽駒ケ岳や立山、山形の出羽三山なども考えていたのだが、今はとてもそんな気持ちになれない。
まあこれも今だけで、帰ったらすぐにその辛さなんて忘れてしまうのだろうが・・・。

畳平バスターミナルの2Fのレストランで市場価格の3倍のかき揚げそばを食べながら帰りのバスを待った。このかき揚げ、どうみてもカップ麺に入ってるかき揚げと同じなんだがこれで1,300円か・・・。


帰りの電車の中で衝撃的な事件を知った。
2009年、この乗鞍岳の畳平バスターミナルでツキノワグマによる凄絶な事件が起こっていたのだ。
現場はついさっきまでいた場所だ。
観光客1,000人がにぎわうバスターミナルに突如コーフンして我を忘れたツキノワグマが魔王岳から突進してきて、次々と人を襲ったというのだ。
魔王岳と言えば、まさに到着初日に「夕日でも見るか」と、全く無防備に入っていったところだ。まさか熊の生息地だなんて考えてもいなかった。
熊は最初にその辺にいた女性を襲い、それを制止しようとした男性の顔面骨を粉砕し、その後も次から次へと大暴れをし、ついにはバスターミナルの建物の中まで侵入した。さきほどのんきにかき揚げそばを食べていた場所だ。
この時、私が宿泊した銀嶺荘の主人が急いで登山客たちを誘導しながらも熊に襲われ重傷を負ったそうだ。

この事件では10人もの重軽傷者を出した。
熊はこのあと例によって猟友会に射殺されたということだ。仕方ないのだろうがどうにも後味が悪い。
特に今年は全国で熊の出没が多数起こっているとニュースでも報じられているが、結論的には「見つけたら射殺」が基本なのだろう。もとはと言えば人間が彼らのテリトリーにどんどん浸食していったのが原因なのだ。勝手に他人の家に乗り込んで、しかも「危険だから」と殺してしまう、という人間の身勝手で熊にしてみればこんな理不尽な話はないだろうが、実際目の前に熊が現れたらまさに自分の生命の危機だ。熊の一撃は人間の顔を粉砕するぐらい強いらしい。そして熊は人間の弱点を本能的に知っているのか、必ず顔を攻撃してくるそうだ。これもYoutube動画に出ているが、熊にやられた人のレントゲン写真で顔の半分の骨が砕けていた。骨折などという生易しいものではなく、粉々に砕けているのだ。
ならば熊の出そうなところにはいかないのが一番だろうが、そしたら高尾山ですら人は入れなくなるし、パワースポットなんか大抵「熊に注意」の立て看板が出てるから二度と行けなくなるじゃないか。
現に2年前に行った長野県最大のパワースポット、戸隠神社にも日中、参拝客が行きかう中、2頭の子熊が参道を横切っていったとニュースになった。
ツキノワグマは本来臆病な性格らしいが、何が原因で興奮し大暴れをするのか理由が分からない。学者はいろいろなことを言うが熊に聞いたわけでもないからあくまでも推測の域を出ない。
一番危険なのは子熊に遭遇することらしい。子熊がいるということはそのすぐ近くに母熊がいる可能性が高い。「かわいいクマさん」などと言ってる場合ではない。母熊は子熊を守るために容赦なく襲いかかってくるだろう。
地球よりもっと文明の進んだ星ではどうやって自然や動植物と共存しているのだろうか。

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