いじめ?-42歳の新人マネージャー2

社畜日記

「毎週会議で共有していることをなんで改めて週報書かなきゃいけないんですか」
「エスカレーションしても(上から)結局自分に質問が来るので、最初から自分で話した方が早いんですけど」

等の声が上がってきた。

さらに
「前職で培ってきたいろいろ私たちの知らないノウハウをぜひシェアしてください」という意見が当然のように出てきた。

「分かりました。私の得意分野はマーケティングや広告宣伝ですので、今度の会議の時にシェアします」

というメールが全員に送られた。
おいおい、大丈夫かよ。

そして次の会議の時、彼はプレゼンを行った。

「みなさん今まで広告とかちゃんと勉強したことがないでしょうから・・・」とわざわざ前置きしてレクチャーが始まった。どこかの会社のチラシをサンプルに出しながら、
「えっと、ここにキャッチコピーというのが入ります。その下にボディコピーが入り、製品の写真が入ります。ボディコピーは性能についてというよりも、その製品を購入することのメリットを謳った方がいいです。そしてロゴはいろいろ使用規定があるので注意が必要です」

「(一同)・・・・・・・・・・」

え、この空気どうするんだよ。

「あのさ、そういう一般的なことは誰でも知ってるんだから、君が今まで培ってきたノウハウをうちの広告宣伝にどう応用できるのか、をみんな聞きたいんだよ」
「はぁ・・・」

そこで会議はおひらきになった。

当然のようにチームメンバーと彼との距離はどんどん開き、厚い厚い壁が出来ていった。
それでも彼は自分のスタイルは崩さず、「管理職」=「監督」というものにこだわった。

4月に大きなイベントが3週連続である、それまでに業務の大筋はつかむようにと言っておいたが、自分から何かを学ぼうとする姿勢はゼロで、次第に「仕事のできないやつ」「役に立たない」「なんであんなのが自分たちより給料高いんだ」という雰囲気が会社中に蔓延していった。
まさに「陰口」の始まりだ。
正直彼が今までどうやって民間企業で20年もやって来れたのか、そっちの方が謎すぎるが、一応彼にも家庭があり家に帰れば3人の幼子がいるらしい。
ほんとうは一家の大黒柱として踏んばらなければならないところだが、どうもそういう気概が伝わってこない。
しかし会社の中はもう彼にとっては完全にアウェー状態。

ここでふと思った。あ、これも「いじめ」ではないのか。自分は今、まさに「いじめ」を行っているのだろうか。
もしそうだとすれば子供に「いじめはいかん」などとエラソーなことを言える立場ではない。
これは自分の中に潜在していた醜い意地悪な性格なのだろうか。
本当は彼は自分を表現するのが下手なだけで、今、精神的にも大いに行き詰っているのだろうか。
それならサポートしてあげれば彼の本来の持ち味が出てくるのだろうか。

色々な推測の元で私は本人に聞いてみた。

「入って2カ月くらい経つけど、仕事の内容とかさ、イメージしてたものと全然違ったりする?」
「いえ、そんなことはないですねぇ」
「こんなはずじゃなかったとか・・・」
「いやぁ、別にそんなこともないですねぇ」

ふーん。

「前の会社は何で辞めちゃったの?」
「ブラックだったんですよ。どんどん人も辞めちゃって。ははは」
「じゃあ帰りがスゴイ遅いとかパワハラとか?」

もしかしたら前職でスゴいパワハラにあっていて、それがもとでうつになり、うちの会社がやっと社会復帰の場だったのではないか。つまり病み上がりなのでこんな状態で、それならむしろ応援してやるべきだ。
しかし彼の答えは

「いやぁ、私はそうでもなかったんですけどね」

とまた笑っていた。私のとっさに思いついた推測は秒殺で崩れ去った。

「その前は結構大手にいたのに、なんで辞めちゃったの?」
「まあいいじゃないですか、昔のことは。ははは」

彼はうちに来るまでに4社ぐらい転職しており、その中には大手も2社ほどあった。
大学もそれなりのところを出ており、TOEICも900点を超え、海外勤務の経験もあるという。だから彼の経歴書はなかなかのもので、書類審査なら申し分のないもんだった。

私はランチはいつも仕出し弁当だから分からなかったが、彼はごくまれに若手の社員をランチに誘ったりもしたようだ。
その時も「だいぶ仕事に慣れてきました」と話していたようだ。
しかし結局彼は何も覚えない、学ばないいまま4月のイベントに突入してしまった。
当然何も動けない。4カ月たっても戦力としての価値はバイト以下だった。
さすがに上層部も「これはひどすぎる」ということになり、5月に入ったら退職勧告を行うことになった。

つづく⇒いじめ?-42歳の新人マネージャー3-

前回⇒いじめ? -42歳の新人マネージャー1-

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