危険球

少年野球
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最近別にコーチ登録したわけでもないのに私は毎週土日、少年野球に参加している。
以前のようにただの「保護者見学」ではなく、ちゃんとグローブを持ってジャージを着て指導の補助要員としてだ。ネット張りやグランド整備も随分と上手くなった。
おそらく子どもたちもママ連中もおれが正式にコーチ登録したんだろうぐらいに思っているフシがある。
 
そんなこの間の日曜日、近所の小学校でいつものように練習に参加していた。
息子はまだ2年生なので3年生以下のグループで基礎練習をしていた。よくあるメニューの一つ、二人一組になり、至近距離(3mくらい)から軽く下投げでボールを出し、もう一人が軽くバットに当てるというやつがある。
もちろん至近距離なので、バッターは絶対軽く当てるだけでなければならない。
この日、息子がいつものように球を投げた。何球目かでバッターの子が打った球が、強打ではなかったにしてもそれはライナーとなってかなり早いスピードで息子の顔を直撃した。
息子はその場で顔を押さえて崩れ落ちた。おれは驚いて駆け寄った。
どこに当たったんだ!まさか眼か?口か?
見ると顔、特に口の周りに血がたくさんついていた。目からは涙がぽろぽろこぼれていた。

「口・・・歯が取れた・・・」

そう言って息子は泣きながら訴えた。息子の手には歯が1本乗っているではないか!!!!!
うわぁ!大変だぁー!
何ということだ!歯が折れてしまったのか!!!!
どこの歯だ?
口の中をのぞくと前歯の隣の歯が1本無くなっていた。
その間も息子の口から校庭の地面に血がぽたぽたと滴り落ちていた。

おれは息子を抱え上げ、ママ連中が待機しているところまでとりあえず後退し、妻と割と仲の良いママ友に「歯が折れた!駅前の歯医者って日曜もやっていたよね!」と言い、車取ってくるからちょっと見てて、と託し駐車場に走った。走りながら妻に電話をかけた。

「大変だ!〇〇(子供の名前)、ボールが口に当たって歯が折れた!今から駅前の歯医者に連れてく!」
妻もパニックになった。
「あたしも行く!とりあえず学校行けばいい?あ、保険証いるわね」

車にたどり着くまでの数十メートルのうちにおれの頭の中では滝のようにいろいろな思いが巡った。
永久歯が折れたとなると、いわゆるインプラントとかいうやつをやらなければならないのだろうか。
まだ8歳だぞ。相手の子もわざとやったわけではないから責められないし、親にしても責めるわけにもいかない。しかしまだ8歳だ。せっかく生えた歯をこんなことで失うなんて。野球なんかやらせなければ良かった・・・おれは心が潰れそうになった。もう自分が泣きそうだ。

そして大急ぎで車を移動させ、再び息子のところに戻ってきた。
しかしなぜかそこにはさっきまでの騒然とした雰囲気はなく、この一大事になぜか和やかな雰囲気になっていた。
おれが駆け寄るとさっきのママ友が
「乳歯で根元からいってるから大丈夫。前からグラグラしてたんだって。口ゆすがせて中見たけど、他に切れてるところも無かったから大丈夫よ」

おれは体の力が抜けていくのを感じた。乳歯か・・・良かった・・・
おれはてっきり全部永久歯に生え替わっていると勝手に思い込んでいたのだ。
息子もだいぶ落ち着いたようだった。

「もう帰るか?」
「やる」
息子はそのまままた練習に戻っていった。

一番取り乱したのはおれだったが、あのシチュエーションでおれの立場だったら絶対誰だって取り乱すだろう。
そうか、乳歯だったのか・・・つくづく良かった。
おれは世の中のすべての守護霊に感謝した。
息子を守ってくれてありがとう・・・

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