少年野球、チームの分裂

少年野球
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息子が4年生になった頃、チーム内にちょっとした混乱が起こった。
次期監督を誰がやるか、ということでもめたのだ。
元々いた監督は独裁主義の恐怖政治を行っていたが、1年くらい前に「このチームで入賞できなかったら責任を取って辞める」と宣言し、実際負けてしまったので自ら辞めていった。
そして代わりに就任した新しい監督は温厚な人だった。
しかしこの温厚な監督も仕事の都合で1年間の期間限定だった。
そして順当にいけば次の監督は「まあこの人だろう」とほぼ内定していたのだが、そこに最初の元監督が急に自分が戻ると立候補してきたのだ。

この元監督は高校野球出身で、チーム内でも唯一ちゃんと技術を教えられる人ではあったのだが、「指導者」としては少なからず問題のある人だった。

子ども相手に恐怖政治をやろうとする。
「野球の監督は怖くなければいけない」という信念でもあったのだろうか。
しかし大抵こういう人は社会でも上に立つと人を支配したがる。
練習中も怒鳴ってばかりだったが試合になるとさらにヒートアップして、プレー中の子供たちをひたすら怒鳴り続けていた。
中には泣きながら守備につく子もいたくらいで、相手チームのコーチ陣がドン引きしてしまうような状況だった。

何のために子供たちはこのチームで野球をやっているのか。
もちろん中には上手くなって甲子園、さらにはプロ野球選手、という子もいたかも知れない。
しかし多くは「楽しさ」を求めていたのではないだろうか。
こんな環境下では試合なんか楽しめたものではない。
だからおれはこの人が戻ってくるのは反対だったし、他の多くの親たちも反対だった。

そして保護者全員参加で次期監督を誰がやるかを決める会議が開催された。

自治会館に20数名が集まった。
まず元監督が自己PRを行った。

「私が監督になれば、他チームから野球経験者のコーチを2名連れてきます」

これはただでさえ指導者不足の我がチームにとってはありがたい話だったが、それと引き換えにまた子供たちがあの恐怖政治にさらされる。
続いてもともとの新監督候補だった人が自分の思いみたいのを言ったはずだが何を言ったか覚えていない。
そのあと司会進行をやっていた奴が
「それでは皆さんからもひとことずついいですか」
と言って全員何か意見をと言い出し、順番に一人ずつ発表させられた。
ここは小学校の学級会か。

おれの番になった。
「うちのチームはちゃんと技術指導をできる人が少ないので元監督や経験者が来てくれるのはありがたいが、しかし元監督の数年間のやり方を思い出すとその中に自分の息子を託したいとは思えない」
というようなことをおれは言ったと思う。
元監督にしてみれば面白くないだろうが本当のことだから仕方ない。

結局多数決で元監督の復帰は却下された。

しかしこれはおれをさらに厄介な状況に追い込むことになったのだった。
つづく

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