【家族旅行】発熱39.6度の下田…前編

エッセイ

確かに疲労は溜まっていた。
それは肉体的疲労ばかりでなく、精神的なストレスのボルテージも相当高まっていた。

「おれの人生はこのままでいいのだろうか」
「最優先事項は家族を守ること。当たり前の話だ」
「しかしそれではおれの人生は結局我慢で終わってしまうのか」
「世のほとんどのおとーさんたちは皆そうしているのだよ」
「それではあまりにも寂しい人生じゃないか」

そんな自問自答を最近ずっと繰り返していた。

そんなさなかに巨大台風がやってきた。
それまでの猛暑から一気に涼しくなった。
時を同じくしておれは久しぶりに熱を出した。

夏風邪か。

思い当たるふしならいくらでもある。
先週の1週間に及ぶ大阪出張では毎晩エアコンをつけっぱなしで寝ていた。
暑いからとジュースや冷水をがぶ飲みする毎日。
不規則で偏った食生活。
そしてストレス。

火曜日

夕方あたりから風邪をひいた時のいや~な感覚があった。
家に帰って熱を計ると37.2度だった。

水曜日

37.5度前後の熱が1日続いた。
体温でこの温度帯は一番つらい体温だ。
しかし今、仕事は1年のうちで一番忙しい時期で、休むどころか夜9時、10時までと続く。
なんとか1日乗りきったが、家に帰る頃には38.2度になっていた。

さて、実はこの週の金曜日、おれはもともと有給申請を出していた。
子供の夏休みの唯一旅行に行ける日程なのだ。
今年は2泊3日で伊豆下田へ海水浴に行く予定だった。
なんとしても金曜日までに治さなければならない。

おれは勇気を出して木曜日、会社を休むことにした。
ただでさえ忙しい時期に、印象が悪くなるのは分かっていたが、今は金曜日までに治すことが目下のおれに与えられた重要任務である。

「寝れば何とかなるだろう」

ところがおれの熱はどんどん上昇し、水曜日の深夜には39度を超え、ついに39.6度まであがってしまった。

自分の記憶の中でも39度を超えた事態はちょっと記憶がない。
これって本当に風邪だろうか。
そんな私を見て、妻が明らかに苛立っているのが分かった。

「もしあなたが行けなければあなたを置いて電車で行くから」

と妻は苛立った声で言った。
マズい、あと1日で治さねば。
これを逃せば我が子との今年の夏休みの思い出が無くなる。

しかし風邪薬が全く効かない。
「ひょっとしてインフルエンザ?」
しかし医者に見てもらって本当にインフルエンザだったら下田どころではなくなる。
いかんいかん、絶対に病院なんかに行ってはならない。

おれは普段なら絶対飲まないバファリンを2錠飲み、ひたすら寝ることにした。
夜になり、熱はようやく収まったが、今度は吐き気をもよおす気持ち悪さが残った。

体はしっかりきしんでいる。

いかにも「薬で無理やり熱だけ薬で抑えてます」っていう感じだ。

「明日、あたしは5時に起きるから」
と妻は冷たく捨てぜりふのように言った。

よーし、あと数時間熟睡できればなんとかなるだろう。
おれは再び寝ようとしたが、今度は焦って眠れなくなってしまった。
時間はどんどん過ぎていき、2時までは記憶がある。

そして旅行当日の朝、おれは5時半に起きた。

「大丈夫なの?」
「うん、全快した」

もちろんウソである。
だいたい39度も熱が出て1日で回復なんかするわけがない。
おまけに昨日は夜中の2時まで眠れなかったのだ。

しかしおれは平静を装って車で一路、下田を目指したのだった。

つづく ⇒39.6度の下田…中編

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