第六話 燃える闘魂、鎮火!

隣人トラブル

我が家以外にも被害者がいる、と分かった時点で妻の態度が変わった。 
「昔からそういう性格の人でさ、周りにも被害を被ってる人がいるのなら、うちが事を大きくして刺激しないほうがいいんじゃないの」
 なんだその後ろ向きな方向転換は。
それはつまりこのまま何もせずに終わらせるということか。
それは言い換えれば「泣き寝入り」というやつではないか。
ブルース・リーは武術の奥義を「戦わずして勝つ」という名言を残したが、これでは「戦わずして負ける」ことになるじゃないか。そもそも妻が 

「怖くてこのままでは家に帰れない」
「思い出すだけで心臓がドキドキする」 
「怖くて玄関を使えない」(玄関は裏の家寄りにある) 
「眠れない」
「食欲もない」
と言っていたのだ。

さらに平日の日中にまた来られたら危険だし、子供に何らかのトラウマが残った可能性も否定できない。
我が家の平和を取り戻すためには裏の住人に出て行ってもらうしかない→法的手段に出るしかない・・・という結論になったはずだ。 

そのためにおれは付けたくもない板で窓をふさいだんじゃないのか。
みんなで妻の実家に避難しているんじゃないのか。
今、片道2時間もかけて通勤しているんじゃないのか。
告訴や訴訟のための準備をしているんじゃないのか。

おれの中の「燃える闘魂」に水をぶっ掛けるような発言だった。
かつてアントニオ猪木は試合前に記者が「負けたらどうしますか」と尋ねた時、「試合する前から負けたときのこと考えるバカがいるか!」とその記者を一喝したという。

自分たちが騒いで被害が近所に広がるのは困る、それは理解できる。
もしかしたらそれこそやけになって何かまたとんでもないことをしでかすかもしれない。
するかも知れないし、しないかも知れない。それは分からない。

おれは裏のオヤジなんか全く無視して生活していく自信はある。しかし妻や子供にはそれは無理だろう。

おれはそれから数時間、投げやりな気分になり、そしてまた考えた。
おれがやるべきことは、やっぱり「家族の平和」を取り戻すことに尽きる。
そのためには告訴だろうが裁判だろうが、必要であればなんでもやらなければならないのだ。

つづく

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