3歳半の子供が夜、高熱を出した。
妻の話によると、夕飯後、突然お風呂に入ると自分から言い出し、出てからは咳き込んで一回吐いた後、
「もう寝る」と言って寝てしまったそうだが、それから「暑い!」と叫んでパジャマを脱ぎ裸になってしまったが、体がものすごく熱くなってたと言う。熱を測ると39.6度あった。
子供はよく熱を出すというが、これまでうちの子はあまり病気をしなかった。
おれの妹には二人の子供がいるが以前
「いるのよね、ちょっと熱が出るとすぐ大騒ぎして医者に子供連れてくる親。医者もいい迷惑よ」
と言ってたが、子供というのはよく熱を出すというのはよく聞く話だ。だからそんなんでいちいちうろたえる必要はない、という意味だろうが、新型インフルエンザなんか死ぬことだってあるんだからやはり「たかが熱」といって侮れないだろう。
会社から帰宅し、すぐに様子を見に行ったが、頭はもちろん背中から腕からかなり熱い。今までも何度か熱は出したことはあるが、今回のは異常に熱いような気がする。熱を測るとやっぱり39.7度あった。どうするべきか。
とりあえず冷えピタシートは貼ってあるが、どーなんだろう。
妹にメールしてみた。
「40度超えたら救急病院連れてけば」
40度か、微妙なとこだな。さっきから39.8度と39.2度を行ったり来たりしている。40度まで微妙に届かない。が、そういう問題か。0.2度なんて誤差の範囲だろう。
おれはまず、夜間医療相談センターみたいなところに電話してみた。夜の12時だった。
「3歳半の子供が急に熱を出して今こういう状態だが、病院に連れてくべきか様子を見るべきかの判断はどうしたらいいのか」
しかし電話に出たおばちゃんは結局話を聞いただけで、
「幼稚園でも風邪がはやっているんですか?今から受け付けてくれるのは市立病院ですね」。
そんなの知ってる。この辺で救急病院と言えば市立病院と決まっているんだ。
結局何をどうしたらいいとかいうアドバイスは何もしてくれなかった。何のための相談員だ。単に報告を聞くだけなんて、まるでどこかの自動車保険会社の事故受付みたいじゃないか。
事故受付といえば、もう15年くらい前になるが、日曜日の夜、初めてバイクとの接触事故を起こしたことがある。原因はおれのほうが一時停止で、これを守らなかったわけではないが、直進してくるバイクに気づかずに発進してしまい、相手のバイクもブレーキの効きが甘かったようで、バイクはそのままおれの車の助手席側のドア付近に衝突した。向こうはそのまま転倒し、おれの車はドアミラーが割れ、ボディが一ヶ所かすかにへっこんだ。衝突と言ってもかなり軽度のものだった。バイクを運転していたのは高校生だった。一瞬肘を押さえていたが、なぜか「大丈夫です・・・」と言って逃げるように立ち去ろうとした。後でわかったのだが高校でバイクは禁止だったらしく、これが学校にバレルとまずいと思ったらしい。
しかし客観的に見た過失としてはおそらくおれの見落としのほうが不利である。おれはお互いの免許証を控え、自宅電話番号を控えたが、とにかくその少年は早くその場を立ち去りたかったようで、そのまま行ってしまった。
しかしなんと言ってもこっちは初めての交通事故である。心臓の鼓動はかなりアップテンポになっていた。
「そうだ、保険会社に連絡しなきゃ・・・」
おれは近くの公衆電話を探し、そこで保険会社に電話した。
電話に出た兄ちゃんは
「事故ですね、お名前は・・・分かりました。明日担当者から連絡させますので、警察には届けてくださいね」
「え、それで終わりですか?今、現場に誰か来るわけじゃないんですか?」
「いえ、あくまでも事故報告の受付ですから」
おれはそれまで保険会社のパンフレットで謳っている「24時間事故受け付け」というのは、24時間事故が起きたときは保険会社の人が駆けつけてくれるものだと思っていた。万が一来れなくてもそこで何をどうするといったきめ細かい指示をしてくれるものだと思っていた。しかしそうではなく、本当にただの事故の連絡を受け付けるだけのものだと初めて知った。
仕方がないのでおれはその場から110番した。
「事故ですか?事件ですか?」
「あの、じ、事故です?交通事故です、バ、バイクとぶつかりました」
「お名前と電話番号を」
「名前は●●です。電話番号は・・・えっと、あの・・・」
なんと自宅の電話番号が出てこない。人はパニックになると電話番号すら出てこなくなる、ということもこの時初めて知った。だから気の利いた保険会社だと、事故が起きたときの対処用のカード見たいのが付いてくるのだろうな。それには自分の情報や、現場で確認すべきことが書いてある。パニックで頭の中が真っ白になってもとりあえず自分の電話番号は書いてあるから言えるわけだ。
突然話しは戻るが
相談員がまったく頼りにならないので、おれは直接市立病院に電話した。ただ、おれは経験的に知っているのだが、救急担当医というのはどんな医者がいるのか分からない。『救命病棟24時』の江口洋介もいなければ『医龍』の坂口憲二もいないのだ。以前、この病院に深夜、胃痙攣でタクシーで行った時、出てきたのはTVドラマ『シバトラ』のように本当に童顔、というか実際に歳も若いのだろうが大学出立てのような、「え、君いくつ?」と聞きたくなるような医者が出てきた。もちろん研修医なのだろうが、そいつはおれの話しを聞きながらカルテを書き込む間、こちらを一切見なかった。そして
「ではお腹を見せてください」
と言って、お腹を少しさわっただけで、
「では薬を出しておきます」
で終わってしまった。
その数日後、おれは再びその病院へ、今度は救急車で運び込まれた。このときも外科医しかいなくて栄養剤を点滴しただけだった。
さて、市立病院に電話すると、看護士らしき人が電話に出て、結局のところ、今から来てもらっても薬を出すくらいしか出来ませんよ、という話だった。いちいち子供の熱ぐらいで連れて来るな、ということだろう。
子供には結局その後わきの下と首の裏にも冷えピタシートを貼ると寝息も安定し、そのまま朝までおとなしく寝てくれた。そして明け方には37度付近まで下がった。
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