乗鞍岳でご来光②

その他

不可解な夕食を終え、部屋に戻ったが、何もすることがない。
テレビも無ければ携帯の電波も届かない。
先ほどの夕食メニューを、例の動画を見て検証しようと思ったがYoutubeが見れない。
LINEもできない、ツムツムもできない。
となるとホントにやることが無くなる。
スマホ文明の恐ろしさを感じる。

そうだ、もうひとつの期待は「満天の星空」を見ることだった。

遡ることおよそ20年前、オーストラリアのケアンズに社員旅行で行った時のこと。
オプションツアーで夜、マイクロバスでどこかの高原に行ったのだ。
目的は夜行性の野生動物を見ることだったが、高原でバスを降りた時、その夜空のまさに満天の星に圧倒された。
ここはプラネタリウムか!
いや、プラネタリウムどころの騒ぎじゃない。
少し大げさに言えば、星が夜空を埋め尽くし本当に今にも降ってきそうな、それくらいの迫力だった。
そこで生まれて初めて「天の川」というものを見た。本当にきらめく川のようだった。
そして本物の流れ星が頻繁に見える。

乗鞍岳は星空でも有名だったのでぜひもう一度あの満天の星空を見たいと思っていた。
しかしこの日は夕方から雨が降り出した。山の天気だからどうせすぐにやむだろうと思っていたら、時間とともにまるでゲリラ豪雨のようにどんどん強くなり、もはや満天の星空は絶望的になっていった。


午前4時。
アラームが鳴った。
もちろんご来光を見るためだ。
しかしあの豪雨はどうなったのだろう・・・。
窓を開けると、なんと雲もガスもなく、もちろん雨もやんでいた。
「おお、なんと運がいいんだ」
空にもほとんど雲は無かったので星が見えた。
がしかし・・・オリオン座がでんと幅を利かせ、その周辺にちらほらと星があるぐらいで
期待していた満天の星とは程遠いものだった。そういえば富士山に行った時も、さぞすごい星空が見えるのだろうと思っていたら、夏の終わりなのになぜがオリオン座だけが見え、満天の星はどこにもなかった。

とにかく雨もやみ、空は晴れてるのでご来光のチャンスだ。
しかも富士山の時のようにこれから重たいリュックをしょって山頂目指し何時間も歩くわけではない。
ほぼ手ぶらで宿の前に見える小高い山(大黒岳)に20分程度で登ればいいだけだ。
乗鞍岳の中での「頂上」と言えば普通、剣ヶ峰というところで標高3026m。
山小屋からは時間にして1時間半で登れるということだったが、Youtubeの情報ではすぐ近くの大黒岳というところで十分という話だった。
そうこうしているうちに東の空が明るくなってきたので急いで大黒岳に向かった。


前評判通り、大黒岳はあっという間に登れてしまった。
すでにご来光を待つ人々がたくさんいたが、富士山のように大渋滞というわけでもなく、みんな静かにじっとその時を待っていた。

大黒岳の「頂上」から見えたのは、延々と広がる雲海だった。
その向こうが明るくなり始めている。


富士山の時のご来光は、その直前、今まで見たこともないような大迫力の朝焼けが空を覆ったが、
乗鞍岳は雲海の絨毯がどこまでも続く、独特な雰囲気を漂わせていた。
日の出まであと15分、というところで後方から大量のガスがやってきた。
当初は軽く考えていたが、そのガスの量がどんどん増えていき、後方は真っ白で何も見えなくなっていた。
このガスが自分たちの前まで侵食されるとマズい。と思っているとガスは容赦なく我々ご来光待ち一団を取り囲み、そしてもうすぐ太陽が出ようとしているあたりにも霧のベールをかけ始めていた。

さっきまであんなに晴れていたのにこれは一体どういうことだ。

もうあと数分で日の出というタイミングであたりは真っ白になってしまった。


満天の星はゲリラ豪雨によって妨害され、今度はガスかよ、と思っていたその矢先、雲海のはるか前方から強い光が発せられた。
「おお、ご来光だ!」

実際はもっと真っ赤に見える


なんと「赤い太陽」がガスなどものともせず、強力な光を放ちながら登ってきた。
それは本当に赤い太陽で、これも驚きだった。
赤い太陽はだんだんオレンジ色へと代わり、あたりはますます明るくなっていった。

ご来光のショーが終わり、宿へ戻り朝食をとってから、いよいよ剣ヶ峰へ登るのだが、この朝食が昨日の夕食に引き続き期待していたものと全く違っていた。

Youtubeで見た動画では、朝から焼き物があり「すごくおいしい!」「満腹です」などと言っていた。しかし昨日の夕食から「期待」は「疑い」に代わり、その「疑い」はやはりその通りになってしまった。

つづく




コメント

タイトルとURLをコピーしました