ひったくり事件勃発!!!

エッセイ

この2週間は相当忙しくなる。昨日も家に着いたのは夜の12時近くだった。
土日は会社に行かない主義なので、その分、平日に多少遅くなっても仕事を片付けたいのだ。
そしてかなり眠さを引きずりながら、今日も7時過ぎに家を出た。
駅までは歩くと15分かかるが、2年前に初めてやった肉離れのとき以来自転車で行く楽チンさを覚えてしまった。

さて、いつもの道をいつものように走ること5分、おれの行く手から作業員風のオジジがこっちに向かって自転車で走ってくる。その向こうで60代後半と思われるおばちゃんが何かわめいている。
何を言っているのか最初はよく分からなかったが、おれとオジジとおばちゃんの距離が近づくにつれ、

「誰かぁ~!!捕まえてぇ!!」

バッグ取られた~!!」

もしやこれは「ひったくり」?
しかしおれの前に迫ってくるオジジはひったくり犯にしては悠々と自転車をこいでくる。
これが全力疾走でペダルをこいでいるなら緊迫感も出るが、あまりに普通にこいでいる。

「捕まえてぇ!!!」

しかしこの状況は明らかに目の前に迫ってくるオジジにおばちゃんが何かを取られたのだろう。
あるいはもしかしたら自転車ごと強奪されたのか。
と思った次の瞬間、おれは自分の自転車の前輪をオジジの自転車の前輪に横からぶつけた。

ガチャーン!

と音を立ててオジジの自転車は横倒しになった。男は何か言ったようだがよく聞こえなかった。
すると男はさっさと自転車を放棄して逃走を図った。
「おのれ・・・」
おれもすぐに後を追いかけようとしたら、そのすぐ5メートル先で別の兄ちゃんに捕らえられていた。

そしておれはすぐに110番をしようとした。
が、こういうときは自分もかなりコーフンしているので、機種変更したばかりでただでさえ操作が分かりづらいiPhoneがよけい分かりづらくなる。
あれ、数字のキーパッドはどうやってだすんだっけ・・・。
で、なんとか通報したが、電話の相手ののったりまったりの対応にはかなりもどかしさを感じた。
場所や交差点名などかなり詳しく伝えているのに何度も同じことを聞く。さらに状況を詳しく聞いてくる。「そんなの駆けつけた警察官に言えばいいじゃん」と思うような細かいことまで聞いてくる。
こっちは男が逃げるんじゃないかとハラハラしてるのだ。
だんだんイライラしてきたのが伝わったのか、「もうそちらにパトカー向かってますから・・・」と言いながらも、なかなか電話を切らせてくれなかった。

やがてパトカーのけたたましいサイレンが聞こえてきた。しかしやけに騒々しい。
それもそのはずだ。パトカー3台、覆面パトカー3台が続々とやってきた。いや、もっといたかもしれない。そして制服警官と私服刑事で20名近くが集合し、あたりは騒然となった。驚いたのはこっちだ。たかだか初老のジジイのひったくり未遂だ。交番のおまわりさんが二人ぐらい来て派出所連れてって終わりだと思っていたのだが、なにやらえらいことになってきた。
110番したとき「事故ですか?事件ですか?」と聞かれ、「事件です」と確かに答えたが、人が殺されたとか別に言ってないし。何か誤解を与えるような言い方したのだろうか。

それで何人ものおまわりさん、刑事さんに状況を繰り返し聞かれ、現場の写真を再現ポーズで撮られ、

「供述調書を取りたいので署までご同行を・・・」とドラマと同じセリフを言われた。
「ええ?今日はちょっと、かなり忙しいので・・・どれくらい時間かかりますか」
「そうですね、だいたい2時間か3時間・・・」
「えーそりゃ無理ですよぉ」
「じゃあ、会社が終わったら来れますか」
「(それはもっと面倒くさい)・・・ちょっと待ってくださいね」

おれは会社に電話して、外国人社長に事情を話し、少し遅れる旨を伝えた。

警察署まではもちろん車で連れてってくれるが、終わってからは最寄り駅までならまた車で送ってくれるというので、自転車を家に置きに行った。
そして「現場」に戻ってくると警察車両はさらに増えていた。

おれはその中の高そうなスカイラインのセダンに乗せられて警察署に向かった。
さすがスカイライン、静かで滑らかな走りだ。が、ものすごくタバコ臭かった。道すがら、おれは運転している刑事に
「いやぁ、あんなにたくさんパトカーやら警察車両が来て、刑事さんや警官の方がたくさん現場に来たので驚きました。私は派出所の人が二人くらい来て、そのままは出所に連れて行かれて終わりだと思っていたので」と言うと、
「犯人が捕まっていましたからね。あれがもし逃げちゃった後だとまた対応も違ってくるんですが、今回はそこに犯人がいたのでやはりあれくらいの人数は必要なんです」

ついでだから3週間前に降りかかってきた隣人トラブルの件を話してみた。
ところがその刑事は
「自分は本部から来たので・・・スイマセンあまりよく分かりません・・・」
と申し訳なさそうに言った。

警察署に着くと個室に通された。といっても「相談室」と書かれていたが。
「ただいま上司が参りますので」
と言って若い警官がコーヒーを持ってきた。
そして温厚そうな上司(多分絶対温厚じゃない!)が入ってきて、供述調書の作成が始まった。
上司は用紙にすらすらと台本を書くかのように事件のあらましを書いていったが、それでもたっぷり2時間かかった。その間、コーヒーのおかわりも出てきた。

途中、入れ替わり立ち代りたの警官が写真を撮りに来たり、携帯の履歴を確認に来たりしていたが、何か全社一丸となってこの引ったくり事件に関わっているような気さえしてくる。

帰りに駅までは別の刑事が送ってくれたが、
「捕まえてくれて本当にありがとうございました」と盛んに礼を言う。
「いやぁ、あんなにたくさんパトカーやら警察車両が来て、刑事さんや警官の方がたくさん現場に来たので驚きました」と、別の刑事だったので来るときと同じことを言った。
「ひったくりは凶悪事件の部類に入るんです。ひったくりはなかなか捕まえられないんですよ。ホントに捕まえてくれれて助かりました」

へぇ、引ったくりは凶悪犯罪なんだ。おれは犯罪の悪どさでいったら万引きの上くらいかと思っていたが、確かにひったくりは強奪だもんな。
実際自分がやられたら相当悔しいだろうな。
まして取られたカバンに財布だの通帳だの入っていたら、悔しいじゃ済まないだろうな。3年くらい立ち直れないかもしれないな。

今回の犯人は結構常習者らしい。
「もう取調室に入っても堂々としたもんですよ」
「そういえばパトカーに乗せられるときも、まるでタクシーに乗るかのように入っていきましたね。確保されたときも特に暴れるわけでもなかったし」
「分かっているんですよ。もし暴れて誰かに怪我でもさせたら、引ったくりだけでなく、強盗致傷という罪も乗っかってきますからますます状況が悪くなるんです。そういうこともちゃんと知っているんでしょう」
なるほどなるほど。

なぜかここの警察署の人はやけに親切で丁寧だった。

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