面接日記 その1(製薬メーカー編)

会社日記

今年は5月以降、継続して面接(自分が受けるのではない)が続いていた。
面接をする側はとにかく疲れる。1日に3人とか予定入れちゃうと、もう3人目なんかヘロヘロになってしまう。
今日も1人、24歳の男性を面接した。
大学卒業後、ある広告代理店のようなところに入社したが4ヵ月で辞めてしまった。
理由は「クライアントの望むことと結果が一致しないのが納得いかなかった」。
よくよく聞くと、彼はアルバイト経験もゼロで社会に出るのはこの4月が初めてだったそうで、しかも就職した会社は上場会社。よほどのブラック企業ならともかく、彼の話を聞いているとただ単に自分の思い通りに事が運ばないので辞めた、としか聞こえなかった。社会人経験ゼロだった人間がたった4ヶ月で「この会社はダメ」と判断してしまう。
一度に疲労が襲ってきた。青い、青すぎる。

また最近ちょっと続いたのは
「私は英語を使う仕事がしたいんです!御社は国際的な展開をしておられる企業で・・・」
と熱く語るから「じゃあ英語で自己紹介をしてみてもらえますか」というと、
「できません」
と言う。そういう人が最近だけで3人もいた。採用はしないがある意味印象的だった。
中には
「転職の理由は、本格的に英語を使って海外の企業とバリバリと商談なんかもしていきたいです」
「どれくらい英語はできますか」
「ハッキリ言って日常会話程度です」
「ビジネスで英語を使ったことは」
「ありません」
「英語で自己紹介できますか」
「できません」
「でも英語は継続して勉強しているということですか」
「いや、社会人になってからはなかなか時間も無くて・・・」
「・・・そうですか・・・」
この人は「英語を使って世界を飛び回るような仕事をしたい」と熱弁していたのだ。
ありえないだろ。
面接をした後はどっと疲れる。これはたぶんエネルギーを吸い取られているからだろう。

もっとも今では偉そうに面接なんかやってるが、私が初めて就職活動をした頃の自分もひどかったもんだ。

世間では「(大学)3年生になったら就職活動を始めるのだ。OB訪問とかしてどんどんして根回しを始めなきゃ間に合わないよ」とよく言われたものだ。
就職雑誌には「人気企業ランキング」などが載っていた。東京海上火災やサントリーなどが名を連ねていた。
人気企業って、なんでみんなその会社のこと知ってんだろうか。そこでバイトでもしてたのか。東京海上?保険の外交員やりたいの?
当時、信じられないほど世の中に対して無知だった私にはまるで状況が理解できなかった。
OB訪問って何?先輩を訪ねていく?おれの知ってる先輩なんてごくわずかだし、どこに勤めてるかも知らないし、連絡先も知らないし、そもそもそんなに親しくないし・・・。
そして4年生になると電話帳のような就職雑誌が勝手に送られてくるようになった。
ふとまわりを見ると、みんなそれなりに企業訪問とかしてるようだった。

大学4年生なんてまだまだ子供だが、中学や高校のもっと子供の頃、将来の自分の職業なんてその時期になれば自然に決まるんだろうと漠然と考えていた。
しかし実際に4年生になり就職戦線の真っただ中に放り出されると、自然になんてことはなく自分が何かをしなければ何も起こらない、ということを思い知らされた。

あるヤツが6月ごろ、「おれ、内定もらった。商社だぜ」と上から目線で言った。
「商社」というものが実際どんな仕事をしているのか見当もつかなかったが、とにかくそいつを見ているとそれは自慢に値することらしい。
「お前どこ受けんの」
この質問はいつも返答に窮した。実際何も考えてなかったし、「将来何になりたいのか」という単純ではあるが「プロ野球選手です」とか「パイロットです」などの夢物語ではなく、実生活に即した現実的なものでなければならない。しかもバイトじゃないんだからその場しのぎのようなものではダメだ。周りの人たちはいつの間に将来のことを決めていたんだろう。この3年間、みんなバカなふりして実は真剣に将来のことを考えていたのか。

電話帳というか「知恵蔵」くらいに肥大化した就職情報誌をパラパラ見ていても、どうもピンとこなかった。
そこで働いている自分の姿というのがイメージできなかった。

就職雑誌に掲載されるものは、理科系の人向けの技術職や研究職以外で、いわゆる文系の学生向けはほぼ100%営業職だった。

そんな就職情報誌を眺めていて、最初に考えたのは「医薬品プロパー」だった。知らないとは怖いもので、もう少し自分が世の中のことと自分の性格を考えればあり得ない選択だった。
志望動機は叔父が小さな病院を開業していて医薬というものがわりと身近に感じたことと、医薬品に詳しくなると何かと便利なんじゃないかというまるでチャラ男のような軽い動機だった。
しかし方向性が決まると行動は早かった。就職雑誌に載っている製薬会社に片っぱしから連絡して、会社説明会をやっているところは全部申し込み、特にそういうものを開いてないところは直接面談(面接ではない)を申し込んだ。

そんな中で、とあるかなり大手の製薬メーカーで1次の集団面接と筆記試験と適性試験を突破した。
筆記はともかく、集団面接は10人くらいのグループに分かれ、フリーディスカッションみたいなものだったと思うが、私は決して積極的に何かディベートを展開したわけでもなく、都合のいいタイミングで何か偉そうなことを言ったのだと思う。
翌日、その会社の人事部から電話がかかってきて、役員面接に来てほしいと言われた。その電話をしてきた男の様子では、どうやら私が体育会系サークルにいた(2年間だけだけど)というの大きなポイントだったようだ。

役員面接の日、そこには同じように一次試験を突破したヤツらが20名ほどいて、集団面接で一緒だったやつもいた。
一人約20分間程度のこの役員面接、まるで狐と狸のばかし合いのような面接だった。
3人の役員と対峙し、まず3択の問題が出された。

戦国時代の合戦の中で、敵の状況と自軍の状況が書かれており、
「さて、あなたは指揮官です。この状況下であなたはどの道を選びますか。①撤退 ②進撃 ③(忘れた)」
と、どれを選んでもいちゃもんをつけられるようになっている。
何を選んだか忘れたが、案の定、予想通りのいちゃもんが返って来た。
結局そういう状況でどう切り返せるかを試しているのだろうが、その意図が見え見えである。

そして次に出されたのが
「あなたの大学について紹介してください」

この頃、すでに面接慣れしだしていたおれにとってこの質問は意表を突くものだった。
はて、何を言えばいいんだろう。考えれば考えるほど言葉が出なくなってしまった。
しどろもどろの訳のわからないおれの答えにがっかりしたのか続いて第2問!
「あなたが今まで受けてきた会社のことを教えてください」
これについてはスラスラと答えられた。

さて、最後の問題!
「わが社について知ってることを述べてください」

そこでおれは再び醜態をさらすこととなった。なんと今面接を受けている会社のことを、自分は何一つ分かっていなかった。分かっているのは最近株価が急上昇していることぐらいでそんなの答えにならない。
「先ほどのA社のことはとてもよく研究しているようでしたが当社の事はあまりご存じないと・・・」
役員は「こいつ何考えてんだ」といわんばかりに呆れかえった(と思う)。そりゃそうだろう。
「終わったな」と思った。もう逃げ帰りたい気持だった。しかしなぜかこの役員3人組はおれをなかなか解放してくれなかった。
「君、顔色が良くないねぇ。内臓が悪いんじゃないか」だの下らない言葉を投げかけてくる。
ふん、大きなお世話だ。
これも意地悪な医者相手に何を言われてもキレないかどうか試しているのだろうか。
そしておれの履歴書を見ながら
「この太極拳っていうの、ちょっとやって見せてくれない」
と言いだした。これは少し前に体育会サークルの延長でちょっとかじっただけのもので、学生課で「なんでもいいからとにかく履歴書は埋め尽くすように」と言われたから書いただけのものだった。

「じゃあ、ちょっとやってみて」
そこでおれは素人が見たって上手いか下手かなんて絶対わかりっこない覚えたての太極拳のさわりだけやってみせた。
そこでようやく面接は終了となった。

ぐったり疲れて部屋を出ると、そこには順番待ちの学生たちがいた。
「ずいぶん長かったですね」
おれと集団面接で一緒だった男が話しかけてきた。確かにおれだけ40分も部屋にいたようだ。
「最後に芸をやらされますから何か考えておいた方がいいですよ」
「え、マジッすか」

もうどーせダメだろうと思っておれは帰路についた。
翌日、また人事部の男から電話がかかって来た。
「あ、昨日はお疲れさまでした。あなたは役員面接で合格しましたので、来週本社の方へお集まりください」
ウソだろ。なんで?
とにかくおれは役員面接を突破したらしい。東証第一部上場会社だ。
それまで企業ブランドなどまるで興味が無かったのに愚かなおれは「一部上場=エリート」の構図が頭に浮かんだ。
こんな3流大学からでも有名企業に入れるんだ!

そして迎えた本社訪問。同じように先日の役員面接を突破した者たちが7、8名だったかそこにいた。
人事の男はおれたちに言った。
「今日お集まりの皆さんは、もうほとんど内定のようなものですから。今日は簡単な適性試験をやって、あとは役員の方とお会いいただいてそれでおしまいです。適性試験と言ってもまあこれで落ちる人はまずいませんから気楽にやってくださいね」

適性試験なんて一番最初にやったのに何でまたやるんだろう。
とにかくそれを終え、あとは役員と握手をして解散だった。

就職戦線はこれで終わった。おれは今で言う「勝ち組」か。最初は出遅れたものの、最後は正義が勝つのだ。
その数日後、昼寝をしていたおれは電話に起こされた。例の製薬メーカーだった。いつもの男が電話の向こうにいた。
「あの、大変申し訳ないんですが・・・実はこの間の適性試験の結果がですね・・・」
寝ぼけていたせいもあるがおれは事態がすぐに飲みこめなかった。
「結局どうなるのですか?再試験受ければいいんですか?(授業の追試ではない!)」
「いや、今回は御縁が無かったということで…。他社の内定、もう断っちゃいました?」
「あたりまえじゃないですか!」(内定なんてどこも出てなかったけど)

おれの就職活動は振り出しに戻ってしまった。季節は秋。

つづく⇒面接日記 その2(フィットネスクラブ編)

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