「気功」で人生は変わるのか

スピリチュアル

すごく昔の話だが、業界新聞社に転職したばかりの頃、おれはまさにストレスが服を着て歩いているような状態だった。
自分で言ってしまうがなまじっか真面目な性格が災いして、入社数か月の身で業務の全責任を負ってるような錯覚をしていたのだ。
そんな中である本を見つけた。

『気には無限の力がある!』

山口令子という人が書いた「気功」の本だ。
気功はもちろん何となく知ってはいたが、実際それほど興味があったわけでもなかった。
タイトルもありきたりで今思えばなんでこの本を手にしたのだろうと考えると、たぶんおれのことだから表紙の著者がちょっときれいだったからだろう。
しかし中身を読んでいくうちに、その内容にどんどん引き込まれていった。そこに書かれていたことは、気功の健康効果とかではなく、気をコントロールすることによって運勢が好転していくようなことが書いてあったのだと思う。


「これだ!今の自分に必要なのは気のコントロールだ!」
とにかく今のストレスをなんとかしたかったおれは、どうしてもこの人に気功の指導をしてほしいと思った。
おそらく巻末に載っていたんであろう、その気功教室に見学に行った。
場所は世田谷で、三軒茶屋から路面電車に乗って、記憶では「松陰神社前」という駅だったと思う。駅から歩いて行く途中にオウム真理教(事件を起こす前)の研修所があった。

その日、気功教室には30名弱のおばちゃんやおっさんがゆらゆらと動いていた。やってること自体は地味で全然楽しそうではなかったが、当時のおれにとっては今のメンタルをなんとかすることが最優先だったので、楽しかろうが楽しくなかろうが問題ではなかった。

しかし本の著者の山口令子がいない。こういうのは「誰に教わるか」が重要なのだ。指導していたのは30過ぎくらいの兄ちゃんだった。本人でないならせめて若いきれいなお姉ちゃんの弟子であってほしい。
練習が終わった時、おれはその指導員に聞いた。

「本の著者の山口さんは来られないのですか?」
「教室がいくつかあるので毎回は来れませんね」

そうか、「毎回は来れない」ということは「毎回ではないが確実に来る」のだな。
そしておれはとりあえず入会することにした。

そして第1回目のレッスン(?)。この時も前回見た兄ちゃんが指導していた。
「なんだ今日も本人はいないのか」
呼吸に合わせて手を上げたり下げたりしていると、途中でなんと山口令子本人が登場した。
そして山口令子は生徒の間を回りながら何やら声をかけてアドバイスをしていた。
本の表紙の通りなかなかの美人だ。
やがて山口令子がおれのところにやってきた。いやがおうでも緊張する。
おれが緊張しながらゆらゆら動いていると、山口令子はおれを見ながら言った。

「もっと気を下までおろして。まだ胸のあたりで止まっているから・・・そうそう・・・もうちょっと下まで」

この人には一体何が見えているんだろう・・・。
しかしその後、世田谷教室に山口令子が来ることもなく、物足りなくなって3か月くらいでやめてしまった。

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