いびきを止めろ④ 敵前逃亡

レーザー引き締めがあまりにも高額だったため、もうこれは切るしかない、と覚悟を決めていた。「(術後は)唾を飲み込むのもつらい」らしいが、おおむね2週間の我慢らしい。その間でダイエットにもなりそうだ。
おれが診察予約を入れておいたのは、いびき治療では有名な銀座の耳鼻咽喉クリニックだった。
「のどちんこをその周辺ごと切除する」という、想像しただけでも恐ろしい手術だが、手術時間は15分程度で日帰りでいいらしい。Youtubeには実際にその手術に挑んだ人たちが動画をアップしていた。中には手術当日のクリニックに入るまでと終ってから帰るところを自撮りしていた人もいたが「麻酔が効いているので今は全然痛くないですよ」と元気にクリニックから出てきた。意外に大したことないんだろうか。
切った人が口をそろえて言うのは
「手術中は全く痛くない」
「切ってる時の匂いがひどい(自分の肉を焼いてる匂い)」
「2週間後には元通りに何でも食べられる」
「やって良かった」
というものだった。
しかしそもそものどちんこだってちゃんと役割があって存在してるのだから、それを勝手に切除しちゃっていいものだろうか。素朴な疑問である。
切った当初は飲んだり食べたりしたものが鼻に回ってしまう、という声が多いようだがこれもすぐ慣れるらしい。
よし、おれも切るぞ!とアプリの「いびきラボ」のオレンジに埋め尽くされたおのれのいびきの画面を見ながらさらに決意を固めていった。

そんなある日、おれはクリニックの場所を調べるためにネットで検索をしてた時、思わぬものを発見した。googleでよくわきに出てくる「googleのクチコミ」というやつだ。最初の画面では星が5つとか4つとかのものが多く、評価の高い口コミが続いていたが、さらに見ていくと恐ろしい投稿が出てきた。それは
「痛い思いだけして効果が無かった」
「半年で効果が無くなり、さらにいびきがひどくなった」
「手術なんかしなければよかった」
という書き込みがいくつも出てきた。
痛い思いをして効果が無いというのは一番避けたい事態だが、術後にさらにいびきがひどくなったら無念のあまり、きっとおれは精神を病んでしまうだろう。

おれはそのクリニックから来た予約完了のメールを見た。するとそこに「手術を受けたお客様の手書きの声」というリンクが張られていた。そこを見て驚いた。一番最初に出ていたのは「後悔している」という声だった。普通自分のホームページには意図的に高評価しか載せないはずなのに、これ、間違えて載せちゃったんだろうか。しかしほかのものはほとんどが「やって良かった」「もっと早くやればよかった」という感激の声ばかり。すごい数の「お客様の声」が載っていたが、やっぱり中に「半年で効果が無くなった」というのを見つけた。
このアンケートには「この手術をほかの人にも勧めますか」という質問があり、ほとんどの人は「はい」と答えているのだが、中には「この痛みに耐えられるならどうぞ」というものもあった。いや、アンケートは「やって良かった」という人たちは例外なく「相当の痛み」を2週間我慢したようだ。

さて・・・。これは無理だな。
効果が無いのも嫌だがさらにいびきがひどくなったらもう寝る場所が無くなってしまう。
もちろんこの後おれは予約キャンセルのメールを送ったのだった。

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