第五部 コロナウイルスは今もあなたの隣にいる

ここに一冊の本がある。
『小さな宇宙人 アミ』。日本で発売されたのはもう25年くらい前だろうが、世界中でベストセラーになり日本でもいまだに多くのファンを持つ。そのインパクトゼロのタイトルからなんでこんな本が世界でベストセラーになるんだろうと最初は思っていたが、その内容は驚愕に値する。物語は童話風にファンタジックなのだがそこには人類が求めていた「謎」に対する答えが随所にちりばめられている。人が生きていく究極の目的「幸せになる」ための解答はすべてこの本の中にある。ちなみに「アミ」というのは「アミーゴ(友達)」の略だ。
この本の最初の方で、この異星人アミに遭遇した少年ペドゥリートは、アミの宇宙船に乗せてもらうことになったが、「おばあちゃんが心配するだろうから帰る」というシーンがある。するとアミは「心配?なんてバカなこと言ってるんだい?まだ起きてもいないことに心を痛めるなんて賢明な生き方じゃないよ。それじゃあ今を楽しめないでしょ」というようなやりとりが出てくる。
ここを初めて読んだ時、「至言だ!座右の銘にしよう」とまだ幼かったおれは感動したものだ。そしてそれからの人生で苦難に直面した時、おれはいつもこの言葉を思い浮かべる。
「まだ起きてもないことを心配するな」
しかし年齢とともにこの言葉は
「まだ起きてないからといって心配するななんて無理!人間はそんなふうに作られていない」
に変わっていった。

さて、PCR検査を終えて家に帰ったおれは再びネガティブな想像ばかりをしていた。
会社からは「テレワークを70%にせよ」と言われていたが、先月のおれは出社率100%だった。ジムも週に3回は行っていた。コロナの最初の頃はランチもお弁当を買ってきてオフィスで食べていたが、ゴミが出るのが嫌で今は普通に店で食べるようになっていた。
「ああ、ちゃんとテレワークをしていればよかった。ジムも行くべきではなかったんだろうか。人混みはやっぱりマズかったな・・・」
おのれの行動を思い出してはいちいちが悔やまれた。それまでは「どんなに気をつけたってうつるときはうつるのさ」と分かったようなことほざいていたが、じゃあ自分はやるべきことをちゃんとやっていたのか。テレワークはしない、満員電車には毎日乗る、ジムにも行く、飲食店にも行く・・・全然ダメじゃん。ああ完全にコロナをナメてたな。
コロナ騒動がもう半年以上も続いていて、しかも自分の周りに感染者が一人も出てないとどうしても気が緩み、どこか他人事になる。おれもまさにコロナなんて自分には関係ないとさえ思っていた。そこに隙ができたのだろう。関係ないどころか、いつも危険にさらされていたのにそれに気づかなかっただけなんだ。愚かな人間のよくあるパターンそのままじゃないか。
ひとしきり自己嫌悪に浸った後、ふと思った。じゃああの連中はどうなんだ!

「あの連中」とはいつも居酒屋でのんきに酒を飲んでる奴らだ。
おれが通ってるジムは会社から700mくらいのところにあるので、いつも夕方に歩いて行ってる。帰ってくるのはだいたい7時半から8時くらいの間で、その道すがらに飲み屋がたくさんある。どこも連日人がいっぱいで、そこにいる奴らは当然マスクなんかしてない。コロナの感染リスクが最も大きいのは飲み屋だと聞いていたのでいつもその光景を見ながら「みんなコロナに感染しておのれの愚かさを思い知ればいい」と憎々しげに思っていたのだ。しかし結果といえばそいつらはうつらずにおれが感染した(まだ決まったわけではない・・・)。どう考えても理不尽じゃないか。少なくともおれはそういう場には一度も行ってないし、普段は常にマスクをしていた。どう考えても理不尽すぎる。この世は理不尽に満ちている。
自己嫌悪の後は完全に被害妄想に取りつかれた。未熟な人間の典型的な思考パターンだ。

まあどんなに嘆こうとも、明日は結果発表が待っている。

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