テニスの試合に出てみた 後編

エッセイ

最後の試合から2年。
まったくふがいない負け方をしてパートナーにもののしられ、しまいには雨も降ってきてさんざんだった記憶がよみがえる。
今回も同じコートだ。

「大丈夫ですよ、遊びですから」

とペアを組む人は軽く言うが、おれにとってはそんな簡単な話ではない。

そのままあっという間に時間は過ぎ、試合当日となった。
スタートは午後4時。3試合あるという。
緊張しながら会場に行き、有無を言わさず自分の番が回ってきた。

コートに入ると、各人両サイドから2球ずつ、計4回練習サーブが打てる。
ボーリングの時の練習投球のようなものだ。
その1球目・・・!

いつもはインドアで練習しているのがこの日はアウトドアコート、つまり天井が無い。
おれはトスを上げたボールとの距離に戸惑い、ラケットを振りだすタイミングが緊張で全く分からなくなった。
あてずっぽうで振りだしたラケットのフレームにボールがあたり、ボールはとんでもない方向へ飛んで行った。これには相手チームは相当驚いたようだった。しかし何よりもおれのパートナーが一番ビビったようだった。
「試合ではひどいと言っていたけどまさかここまでとは・・・」
しょっぱなから何ということだ、おれはここに来たことを後悔し始めていた。
やっぱりやめときゃよかった・・・。
しかし試合はもう始まるのだ、落ち込んでる時間は無い。

試合は相手サーブから始まった。
相手チームは相当場慣れしている感じだった。最初から強いサーブを打ってきた。
それをなんとおれは1球目からジャストミートし、我ながら結構いいリターンを返した。
たぶんポイントは取られたが、それは自分にとってかなり予想外の展開だった。
というのも、前回の記憶をたどりながら、自分の中にはある程度のシミュレーションをしていた。

おそらく最初の試合では緊張のあまりラケットの真ん中にボールはなかなか当たらない、いわゆる
オフショットにしばらく苦しむだろうと考えていたのだ。サーブだってダブルフォルトを量産するだろうと覚悟していた。
その後もゲームはしばらく相手チームの優位に進んだが、途中で盛り返し結果6-3で負けた。
しかし相手チームは相当自信があったようで、3ゲーム取られたことも気に入らなかったらしい。
負けはしたが2年ぶりのド緊張の初戦にしては、随分頑張ったと思えた。

第2試合。
相手は技術的には明らかに格下である。これは勝てる、と思ったらいきなり自滅パターンに陥って行った。
はやる心が体のあちこちにりきみを生むのだろう。気がつくと4-0でリードされていた。あと2ゲーム取られたら終わりだ。ここでおれもパートナーもスイッチが入り、今回は本当に怒涛の反撃でなんと4-6で逆転勝ちを収めた。
それは素直にうれしかった。たとえ格下とはいえ、4-0から逆転できたことにおれは十分満足していた。

そして最後の第3試合。
最後の相手はやはりかなり場慣れしているようだったが、実は第2試合で満足して二人とも集中力が切れ、結果やはり負けてしまった。

1勝2敗。しかし今までと違い、今回はかなりの満足感を伴うものだった。

試合の何がイヤかって、自分のサービスを打つ時が一番イヤだ。しかし1セットの中に 2回は必ず回ってくる。そしてたいてい「ここは絶対取らなきゃダメ」というシーンでおれはお約束のようにダブルフォルトを出す。
これはもう技術の問題ではなく、心の弱さの問題だ。
いみじくもその後、TV番組「炎の体育祭」の松岡修造塾で、合宿初日、子供たちに

「1本だけサーブを打ちなさい。入らなければ帰ってもらいます」

というシーンがあった。ほとんどの子は入らなかった。
その後松岡修造は

ここ(サービスライン)に立った時、
どんな気持だった?
緊張しただろ?
ものすごく緊張しただろ?
これが“テニス”なんだよ

と言ってた。なるほど、そういうことだったのか。

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