森 恵の横浜ライブはスゴかったのか

森 恵

いよいよ横浜だ。
「横浜赤レンガ倉庫」。8年くらい前だったか、仕事でパシフィコ横浜に打ち合わせに行った帰りにランチで1度だけ行ったことがあったが、どんなところだったかほとんど覚えていない。

当日、私はなぜか行くのがナーバスになっていた。
まず横浜までが結構遠いということもあるだろうが、会場の勝手が想像つかない。
たぶん倉庫の一角を改装したようなところだろうからオールスタンディングでやるんだろうか。
全席自由と書いてあるが、これはただ「場所指定なし」ということか。
早めに行って30分もずっと立って開演を待ってるのもやだな・・・。
私はぐずぐずしながらようやく家を出た。
ちょうど30分前に横浜に着くように行き、そこから歩いて会場にちょうど15分くらい前に着く手はずだった。
しかし電車に乗ろうと駅に着くと、おれは定期を忘れたことに気付いた。
急いで取りに戻ったが、おれの中では一抹の強い不安がよぎった。
「開演時間に間に合うだろうか」
待つのが嫌でぎりぎりに着こうと思っていたのにその電車に乗れない。
スマホで調べると、なんとか15分前に向こうの駅に着く。
そこから会場へ行くと、おそらく本当にギリだろう。

みなとみらい線「馬車道」駅を降り、赤レンガ倉庫を目指した。
建物は2棟あり、どっちがどっちだかわからない。もう10分前だ。
ホールってどこだよ。
3Fと書いてあったので階段を駆け上がるとそこはレストランだった。
おれは駆け下り、近くにいたお店のお姉さんに「ホールってどこですかっ!」と聞くと
「ホールは1号館なので隣の建物です」
なんということだ、おれは人混みを駆け抜け隣の建物に飛び込んだ。
幸い3Fに上がる階段がすぐに見つかった。

入り口で「ドリンク券の500円をご用意くださーい」とスタッフが声をあげている。
500円渡すとギターピックを渡された。
そのまま中へ入るとグッズやCD販売をしていて、その先にドリンク引き換え場所があった。
なんでアクエリアスのペットボトルが500円なんだ。

疑問を抱いたまま会場に入るとなんだ椅子があるじゃないか。
これだったらもっと早く来てもよかったか。
客層は思った通り、若くても30代、ほとんどは40代、50代で占め、それから60代と思しき人も
少なくはないようだ。女性はちらほら程度か。20代なんてほとんどいないんじゃないか。
森恵本人はたぶん28歳くらいだから、ファン層は明らかに高い。
長い人生でいろんなアーチストの歌を聴いてきた人たちがドンピシャで
「この人は本物だ!」と支持が広がっていんだろう。

座席数はざっと見て横に8席×20列が3ブロックだから、おそらく全部で500席程度だろう。
しかし本人の実力から言ったら0が一個多くてもいい。場所さえよければ5000人くらい集められるんじゃないか。
おれは後ろの方が空いていたので、一番後ろから静かに見てようかとも思ったが、
中ほどの位置にもちらほらまだ空きがあった。そこでおれはもう少し前進して
前から13列か14列か15列か、とにかくその辺の左ブロックに座った。
前に女性が座っていたので、前の人が邪魔になることもあるまい。
会場内が暗く、ステージの状況がよく分からなかった。
しかしこの席の選択は大きな間違いだったことに気づくのにそう時間はかからなかった。
問題はおれの前に座っている女性のさらに前の列の、ちょうど女性から斜め右前に座っている男だ。
最初は暗くてよく分からなかったが、目が慣れてくると、その男、妙に座高が高い。ずんぐり体型なので横幅もある。
致命的なのは、おれの位置からステージのマイクスタンドまでの直線上にそいつが座っていることだ。
もう時間的に別の席に移れるようなタイミングではない。
開演予定時刻10分後にライブは始まった。
本人登場。ああ、何ということだ、そいつはまるで計算したかのようにピタッとおれと
森恵の間に立ちはだかっていた。まるで惑星直列のようだ。
しかも妙に姿勢正しくきちんと座っている。もしこれが映画館だったら、時間とともにだんだん姿勢も崩れてきて、いつの間にか頭が引っ込んでるケースが多いが、ライブだとそういう期待も持てない。
「あいつ、寝ないかな・・・」と淡い期待も抱いたが、そんなことあるわけがない。それどころか、もしこいつが興奮して立ち上がりでもしたらもう何も見えなくなってしまうだろう。

ライブが始まった。キーボードとパーカッションの3人編成だ。
「アコースティックツアー」と書いてあったから一人でやると思っていたんだが。
みんな立つのかと思ったら、意外におとなしく席に座って聴いている。
郷ひろみの東京フォーラムでのコンサートの時は1曲目から観客総立ち状態だったが今回のはおとなしいもんだ。
手拍子なんかしている人もいたが、ただじっと聞いてる人もいる。
なかなか大人の客の集まり、という感じだ。
手拍子なんかはしたい人にやらせておけばいいのだ、おれは2列前の男の隙間からなんとか
ステージをじっと見入った。
しかしギターのネックを持つ手がどうしても男が邪魔で見えない。
そんなフラストレーションを抱えながらライブはどんどん進行して行った。
中盤、
「みんな~盛り上がって行くよ~!」
森恵が叫んだ!
おれははっきり言ってこういうのは苦手だ。
甲斐バンドのコンサートならそれもアリだったが、この人の歌はじっと聴いていたいのだ。
「みんな~!盛り上がってるぅ?」
(客・・・なんか言ってる)
「全然足りないよー!」
(客・・・なんか叫んでる)
「行くよぉ!」
それまでおとなしく座っていた前列のブロックから、みんなにわかに立ち始めた。
それは波のようにゾゾッと後ろにも伝播していき、会場は全員総立ち状態になった。
しかしそれでも頑として立たないおとーさんたちも何人かいた。
おれも立ってみたが、前方が全員立ち上がってしまうと、もう本人の顔しか見えない。
ギターも見えない。ステージ自体がそんなに高くないんだろうか。
前の方では両手を上にあげて手拍子なんかしてる。こうなるともう本人の顔すら見えたり見えなかったりになる。
それ以降、ときどき垣間見える本人の顔を確認する程度でライブは終盤まで行ってしまった。

ライブだからやってる本人は絶対こっちの方が楽しいだろうしやる気も上がるだろう。
さらに「これがライブよね」と言って騒ぎたい人にも絶対こういう方が楽しいだろう。
甲斐バンドのライブだったら座って聴いてるなんてありえない。

おれは複雑な気分だった。
しっかりとPAも入っているので音質音量ともにちょうど聞きやすくなってはいたし、
照明もショボいなりには頑張ってた。必要は感じなかったがピアノもパーカッションも
悪くはない。
しかし浜松町の駅前で聞いた時のような迫力も満足感も得られなかった。
浜松町駅前の路上ライブは、スピーカーの音も鼓膜ぶち破りのひどいもんだし、こっちももちろん立ちっぱなしだし、
しかしそれでもギルドギターの迫力、そして本人の驚異的な「歌声」はまさに度肝を抜かれる体験だった。
帰りの電車の中で考えた。
これなら路上のを見に行った方が(自分には)いい。

しかし困ったことに、来年「SHIBUYA-AX」で2月にライブがあるという。
ここには以前、甲斐よしひろのソロライブに行ったことがあり、2F席じゃないとおそらくまた本人の「顔」しか見れないだろう。次のは「全席指定」とある。危険だ・・・。
次は前の席とちゃんと段差のあるちゃんとしたホールでやってほしい。
なんなら武道館でもいい。アリーナ席でなければ絶対見えるはずだから。

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