「社畜日記」を書き始めて分かったことがあるのだが、入社当時のことを思い出しているとうつになりそうだ。
入社一年目はとにかく辛かった。だから無意識に思い出さないようにしていたのかもしれない。しかし思い出す作業をしていると、かなり鮮明に記憶していることに我ながら驚く。
と同時に当時の情景や感情までもが甦ってくるので、それはそれで結構きつい。
辛かったときの感情をなぞっているような気分だ。
そうすると、辛い感情を二度味わっているようじゃないか。
いや、これを吐き出しきった時におれの心に大きな傷となっているトラウマは解消されるのだろうか。
「記事を書く」ということについてはもちろん初めてだったが、おれの書く原稿はなぜか社長にはウケが良かった。最初に書いた新宿放浪取材の原稿はほとんど直し無しでそのまま活字になって印刷されてしまった。これにはおれもちょっと驚いたが、まあ経営者がいいと言うのであればいいんだろう。
おれの先輩の女はなかなか意地の悪い女だった。
ある日、麻布にあるドラッグストアの取材に同行したことがある。
そいつは店長と顔なじみらしい。店の取材なんて大抵立ち話になるのだが、その女は店長にぴったり寄り添い、小声でヒソヒソ何かを聞いてはメモっていた。おれには全然聞こえない。
そして会社に戻ると、
「今日の取材の分、原稿に起こしてみて」
と当たり前のように言った。
「え、だってあれじゃ何喋ってたか全然聞こえませんよ」
「分からないことがあるならその場で聞かなきゃダメよ、二度手間でしょ」
あるときその女はおれに
「新商品のページ書いてみて。バックナンバー参考にしていいから」
と言った。
新商品の紹介ページは、一枚のチラシからその商品の一番の特徴を読み取りそれを10数行で書くといったもので、一見簡単そうだが文章力以前に読解力と想像力を要求されるものだ。
女は「バックナンバーを参考に」と言ってたが、おれは過去の記事がそれほど上手くできているとも思えなかったので、自分なりに書いて女に見せた。
「ダメよ、全然ダメ。使い物になんないわ。それに勝手に文体変えちゃダメよ」
使い物にならない・・・?
なんという屈辱的なセリフだ。
おれは頭に来てバックナンバーとほぼ同じように書き直して再度女に渡した。文体も忠実に再現した。
すると女は編集次長に
「やっぱ全然ダメ。あたしが書き直した方が早いわ」
と吐き捨てるように言いやがった。
そんなこと無いだろう。これはもう意地悪でしかない。
おれは自分で書いた「元の文章」を、そのまま後ろにいる社長に出してみた。
「新商品のところ、ちょっと書いてみたので見てください」
「うん、なかなかいいよ、分かりやすいし」
ほれみろ!
その数日後、女はおれに言った。
「社長の言うこと信用しちゃダメ。前にいた女の子も社長にいいよいいよって適当なこといわれて結局文章全然上手くならなくて辞めていったんだから。大体社長だって文章ヘタなんだもん。これからはアタシが見てあげるから原稿書いたらアタシに出して」
しかしおれはそれを無視し、以降全て社長に直で持っていったのだった。
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