5月に入り、わが社のイギリス人社長は実際に退職勧告を行ったようだ。
が、かなり不可解な退職勧告となった。
情報が錯綜し、両者言ってることが違う。
イギリス人社長は
「自由に転職活動してかまわないから9月までに次を決めてくれ」
と言った(?)
しかし新人マネージャーが言うには
「(社長からは)自由に転職活動で外出してかまわない。しかしもし会社に残るのであれば、12月から給料を下げると言われた」
と言っていた。
前職での就業期間が約1年、今の会社が約半年、年齢も43歳になってる。何か特殊技能があるわけでもなく、むしろいったい何ができるのだろうと悩んでしまう人物だ。経歴書は立派なものが書けるが面接で突っ込まれたらすぐにばれるだろう。
「もし9月までに決まらなかったら、会社に残るという選択肢もあるの?」
「それはありえません」
「なんで?」
「給料下がったら生活できませんから」
「でも次が決まらなかったら?」
「それはないでしょう、ははは」
と余裕をかましていた。
おそらく今まで何度も転職を繰り返していたので、どうせ次もすぐに見つかるだろうと考えていたかもしれない。
5月以降、彼は本当に昼間から頻繁に外出するようになった。
しかし別に半休とか私用外出とかの届けを出していくわけではない。もちろんどこに面接に行ってどんな結果だったかなど報告するわけでもない。本当に面接に行っているのか、それとも漫画喫茶かどっかで遊んでるだけなのか、誰にもわからない。
そもそも給料をもらいながら就業時間内でも自由に転職活動ができるなんてことが民間企業で許されていいのだろうか。
しかし彼は週2回ぐらいのペースで外出を繰り返した。
そんなこんなで3ヵ月が過ぎた頃、私はなにげに聞いてみた。
「どう?どこかいいところ、あった?」
「いや、まだですね」
「どんなところを目指してるの?」
「いや、片っ端からあたってますよ」
8月が終わり、9月。そしてその日は突然やってきた。
まず社長が彼に「ミーティングしましょう」と呼び出した。
そして数分後彼が戻ってくると、入れ替わりで私が呼ばれた。
「あの人には明日までって言いました。引継ぎとか問題ありますか?」
会社の業務はほとんどやってないに等しいのだから問題などあるはずがない。
そして翌日、午後に出社した彼は自分のデスクを片付け始め、夕方に一応みんなにお菓子を配りながら(わが社では辞める人間が最後にお菓子を配るのが慣例になってる)、そして静かに去って行った。
なんとも後味の悪い結末だ。
結果として我々は彼を「いじめ」ていたのだろうか。
仕事に対してやる気も責任感も積極性も無く、管理職の立場で入社したので給料は高い。そんな彼に誰も口を利かなくなり、誰もモノを頼まなくなった。社内では間違いなく孤立していた。社内では「ダメなやつ」と、これも自然に「陰口」が蔓延していった。口に出すかどうかは別にしても、みんなそういうもどかしい思いは共通していただろう。
「今のままではマズイぞ」と何度も警告はしたが、笑って聞き入れなかった。社内での彼の立場はますます悪くなり、当然の結末としてクビになってしまった。
彼の人生は彼のものだから私がとやかく言う話ではないのでどーでもいいのだが、自分が「いじめ」る側にいたのかどうかは大きな問題だ。
時を同じくして息子の野球チームでも同じことが起こっている。
新入部員の6年生とその母親だ。
1ヵ月くらい前に他のチームから移籍してきたのだ。
「前のチームではチームメイトやコーチ、監督からいじめられてた」と聞いていた。
そしてうちのチームに入れることをすごく喜んで、枕元にユニホームを置いて寝ていたという。
その子が早くも除け者になっている。さらにその母親も「空気を読まない」と非難の的になっている。
子供に「仲間外れにしちゃダメだ」と言うと、「だってあいつが悪いんだよ」と返ってくる。
仲間外れになるのは本人に理由があるというのだ。
これはまさに私の会社で起こった「42歳の新人マネージャー」と同じである。
私の息子は新入部員をいじめているのだろうか。
私は新人マネージャーをいじめていたのだろうか。
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