話は半年ほど前にさかのぼる。
その日、私は社内の狭いストックスペースで納品された印刷物の整理というか移動をやっていた。
その中に一つだけ極端に重い箱があった。私は不安定な体制のまま無理やりその箱をずらそうとしたが、その時「ピキッ」というような刺すような感覚が腰に走った。
すごく嫌な予感がした。
もしかしたら腰をやってしまったか…。
思えば生まれて何十年、腰痛とかぎっくり腰とは無縁の人生を送ってきた。いや、厳密にいえば一度だけ腰を悪くしたことがある。
高校1年の時、私はハンドボール部に所属しており、練習中に腰から落ちたことがあった。
駅までの道のりでも腰が痛くて動けなくなることもあったが、その時は同じ部の奴に「腰枕して寝るといいよ」とアドバイスされ、その通りにしたらホントにあっという間に治ってしまった。
まあそれを除けばあとは確かに腰痛とは無縁だった。
その日、腰に違和感を持った私は少しナーバスになっていた。
年齢的にも今、腰なんか痛めたら治りも遅いだろうし慢性化したら厄介だな、とかいろいろ考えてしまった。
午後の間もしばらく違和感は続いたが、夕方頃にはほぼおさまってきていた。しかし念のためと、会社の近くの接骨院に行った。
その接骨院はわりと新しくできたところで、オープン時にはあちこちで「無料体験チケット」というのを配っていた。ブルーの看板に「○○○メディカルグループ」とありチェーン店らしかった。
「結構痛みますか?」
「いえ、実はほとんどよくっちゃったんですが念のためと思って・・・」
で、そのあと私の側面からiPadで写真を撮り、それを見せながら
「こんなに猫背になっているんですよ」
と言った。そして私の背中や首や腰をかなりの時間をかけて念入りにマッサージし、再び写真を撮った。
「ほら、こんなにまっすぐになったでしょう。本来はこうでなければいけないんです」
仕事柄、どうしてもデスクワークが多いので当然猫背にもなるだろう。
「実は今、猫背矯正コースのキャンペーン中でして、もうすぐ(キャンペーン期間が)終わるので少し安くなっているんですよ」
と、予期せぬセールスをかけてきた。
「今なら24回で56000円のが48000円で受けられます」
とそいつは声をひそめた。
ここで私は猫背の指摘よりも、これが治ればもしかしたら肩や肩甲骨が柔らかくなるのでは、との期待が膨らんだ。
以前通っていた加圧トレーニングジムでもトレーナーから
「あなたの肩の肩さは歴代ベスト3に間違いなく入りますよ。硬いというか、もう超合金ですよ」
と驚かれたこともある。そのころはもう肩甲骨が埋まっていて、どこに肩甲骨があるのかも分からない状態だった。
トレーニングしていても
「肩甲骨が全然動いてないですよ」
と言われたのも一度や二度ではない。
「猫背矯正やったら肩甲骨や肩回りも当然柔らかくなるのだろう。そしたら当然テニスも上手くなるだろうな。それに毎回これだけマッサージしてもらえるならそれだけでも価値はあるな」
と考えが巡り、私としては珍しく衝動買いをしてしまった。
週一回で24回だから約半年。私の体は柔軟性に富んだしなやかな体に変わっていることだろう。
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