永遠の3分間

スピリチュアル

おれは町田にある大学に通っていたのだが、小田急線とJRを結ぶ連絡通路にその男はいた。
片手で何かのファイルを抱え、右手を上空にかざしながら行きかう人に声をかけては無視されていた。
おれが近づくと、やつはプランクトンのようにほとんど条件反射でおれに手をかざしながら近づいてきた。
「あなたの幸せのために3分間祈らせてください」

学生の時のおれの心理状態というのはやっぱり異常だったと思う。おれは好奇心からなのか、話しを聞いてみたくなった。
「祈るとどうなるのですか」
男は長い間一人で群集に無視し続けられている中、おれの質問はまさに天からの一筋の光であったに違いない。
「あ、えっとですね、血が、血がきれいになります。本当です。それからですね、あの、えっと、えっと・・・」
男は喜びのあまり頭の中が真っ白になってしまったのか、ほとんど説明になってない。そばにいたその男の教育係風の女が近づいてきて、
「私が説明します」と割り込んできた。
「血液がきれいになったというのは実際に実験で確認されています」
「それは血液検査をしたのですか」
「そうです。体の中が浄化されていくのが分かります。まずはやってみましょう」
かなり強引な女だった。
「やっぱりいいです。これから行くところもあるし」
「別にタダなんだから試してみればいいじゃない」
女は急に挑発的に上から目線で言ってきたので、おれも引けなくなってしまった。
「じゃ、じゃあ、3分間で終わるんですね」
おれは興味本位でとりあったのを急激に後悔し始めていた。

「最初に眼を閉じて、メイシュ様なんとかかんとか、と3回唱えてください」
おれは目を閉じ、男がおれの額に向かって手をかざし、公衆の面前で永遠とも思える長い3分間が始まった。やっぱり恥ずかしいな。目を閉じてるから周りは見えないが、きっと通り行く人たちは失笑を浮かべながら足早に通り過ぎて行ってるんだろうな。知ってる人に見られたらイヤだな・・・。

永遠の3分間が終わった。
「何も感じませんよ」
「一回じゃダメですよ。近くでやっているのでそこに行きましょう」
ふざけんな、恥ずかしい思いをして「1回じゃダメ」って、悪質商法丸出しじゃないか。
そこでおれはようやくその場を立ち去ったのだった。多分19か、20歳の時だった。

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