インド聖地巡礼の旅③~神に手紙を書く

インド

2本のバナナを食べたあと、みんなおとなしくバスに揺られていたが、ふと思い出したことにずっとトイレ休憩がない。最後のトイレは遅めの昼食をとったレストランだ。あれからもう何時間経っているのだろう。それはツアー客の総意だったろう。
おそらく誰かが添乗員に言ったのだろうか、ようやくバスは左手に広大な野原の広がる路肩に停止した。
辺りは既に「夜」になっていた。

「それではみなさん、ここでトイレ休憩を取りたいと思います。女性の方はなるべく奥の方がよろしいかと思います」

え?ここで?
そこはちょっと丈の長いだだの草っぱらだった。確かにしゃがめば姿は隠れないでもないが…。
電灯もなく、月明かりだけが頼りだった。
しかしトイレなんかどこにもないのだからしょうがない。
岩山ばかりでドライブインなんてここに来るまでも確かに全然見なかった。そこで皆文句も言わず、まあ言ったところでどうにもならないが、女性は奥の方で、男性は適当にその辺でそれぞれ用を足し、またバスに揺られ、これもあいまいな記憶だが10時か11時ごろに「本日の宿」に到着した。
これも急いで手配したのだろう。4人ずつ一部屋に振り分けられた。

部屋は相当気合の入った趣きで、「ここで寝るのかよ」と思わず絶句したくなるようなベンチのようなベッドが4つ。カチンカチンのマットに毛布一枚。今考えればおそらくそれはダニやシラミの巣窟だったのかも知れない。
一応シャワーもあったが、先にシャワーを浴びにいった同室の人が「赤い水が出てきた」と言ってた。トイレはどうだったか覚えていないがきれいなはずがない。
夜遅くにもかかわらず、バイキングの夕食が用意されていた。

目指すアシュラムまでは結構近くまで来ていたようで、翌日の出発には少し余裕があった。
日本語上手のインド人ガイドがおれたちに話しかけてきた。

「ダルシャン(礼拝)の時、サイババがもし近くに来たら手紙を渡すといいですよ。受け取ってくれたらその願いは必ず叶うと言われています。バスが出るまでの間、手紙を書いてはどうですか?」

手紙のことは日本にいるときにテレビでも見ていたので知っていたが、そういう理由だとは知らなかった。おれといかりくんは早速手紙を書き始めた。

「きみさ、願い事いくつ書いた?」といかりくんが聞いてきた。
「5個ぐらいかなぁ。やっぱり多すぎるかなぁ・・・」
「え?何言ってんの?おれなんか20個くらい書いたぜ。書くだけならタダだし」と、得意げに言った。ちょっと悔しくなって、あと3個ほど書き足した。

5月のインドのよく晴れた日だった。しかしそこは湿度が低く気温は高く、紫外線が凶暴に皮膚組織を破壊し真皮に突き刺さっていく感じだった。
そしていよいよバスが出発し、今度こそ本当にサイババのいるアシュラムへと向かっていった。

到着したアシュラムはそこそこ大きな施設だったが、中身はどこかの大学の校舎のようでもあった。
添乗員が手続きを済ませ、一人ひとりに毛布が渡され、我々は自分たちの部屋に案内された。
部屋に向かう途中、なんと猿があちこちを走り回っていた。

部屋と言ってもそこはまさに広い教室で、一人一蚊帳が自分の陣地としてあてがわれていた。この蚊帳の中が自分のパーソナルスペースだ。荷物もこの中に置く。セキュリティもなにもあったものじゃない。
部屋にはすでに外国人がたくさんいた。
朝と夕方にダルシャンという、いわゆる礼拝があり、そこにサイババは登場するのだ。
到着日の夕方の記憶がないのでこの日はダルシャンがなかったのかもしれない。
そして翌日からおれたちの「神との遭遇」が始まるのだった。

つづく

聖地巡礼の旅 第一部
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