きくち寛コンサートツアー「唄は祈りになれ」in日仏会館②

きくち寛

「今度全国ツアーをやるんですよ。多分皆さんの知らない昔の曲なんかも歌いますから」
東京公演は今はなき、お茶の水の日仏会館だった。
最前列のど真ん中にいたおれはオープニングから度肝を抜かれていた。
当時、日夜アコギを練習しているギター少年だったおれにとって、それは衝撃的だった。

当時、多くのギター少年はなぜか長渕剛に憧れ、長渕剛の弾き方を徹底的にコピーしていたが、おれはこのコンサートの後、きくち寛の弾き方を徹底的に真似したものだった。
きくち寛のギター奏法は今まで自分がギター雑誌なんかで練習してきたものとも全然違い、自分の周りにもそんな弾き方のできる人なんていなかった。

そしてライブ後半のクライマックス、エンディング・・・思えば初めてのライブ体験だった。おそらく体中にアドレナリンが出まくっていたんだろう。
コンサートが閉幕し、会場内に照明がつき、我に返った。
あ、マズい。
明るくしないでほしい。

今頃ロビーは女性ファンでごった返しているんだう。
しばらく自分の席でじっと息をひそめていたがあまりいつまでもそこにいるのも変なので、しばらくして意を決し席を立った。
そして急ぎ足でロビーを抜け階段を上った。
ロビーでは「ファンクラブの入会はこちらでーす!」と女性が叫んでる声が聞こえた。

このコンサートツアー、東京だけはファンが多いと読んだのか3日間連続公演だった。
当時はスマホやyoutubeもない時代で、あとでネットに上がるなんてことはもちろんない。そもそもまだインターネットがない時代だっだ。さらに言えば「ビデオデッキ」(ブルーレイではなくビデオ)すらまだ一般庶民のものではなかった。

「なんとかこの感動とあのギターテクを脳裏に焼き付けておきたい・・・」

さんざん考えた挙句、結局おれは次の日も見に行くことにした。
しかしそれにはもう一度あの女性たちの輪の中に男一人で入っていかなければならない。
しかし今見なければもう一生見ることはできない。
まさに「ライブ」なのだ。

2日目の席は会場のちょうど真ん中よりちょっと後ろの右側に少しずれたところだった。
今回は前後左右に女性客がいると思って間違いない。
そこでおれは開演直前に入った。始まってしまえば会場内も暗く、誰も隣なんて気にしないだろう。
しかしコンサートというのはいつもそうだが絶対時間通りに始まらない。必ず15分とか20分とか遅れて始まる。多分わざとじらして観客のボルテージを上げる作戦なんだろうが、予想通り前後左右を女性客に挟まれてしまったこっちはたまったものではない。

そんなこんなで始まってみると、当然意識はステージに集中する。
やはり前日のど真ん中の席とはその差歴然で、特にギター奏法なんてほとんど見えなかったがそれでもおれは一生懸命脳裏に焼き付けていた。
そして2日目の公演も終わり、またしても逃げるように会場を後にした。
ロビーではまた「ファンクラブの入会は~」と女性が叫んでいた。

「ファンクラブ・・・」。
これが実はかなり気になっていた。
というのも、今回のライブでは予告されていた「昔作った曲」、ライブ後半がまさにそれで、しかも圧巻の展開だった。そしてそれらは確かに聞いたことのない曲ばかりだった。

「もう一度聞きたい!」

きくち寛はもともとキングレコードからデビューし、3枚アルバムを出してからクラウンレコードに移籍していた。どこで聞いたか覚えてないが、キングレコード時代のアルバムはすでに廃盤になっているという話だった。
がしかし、キングレコード時代のサードアルバムは、実は手に入れていた。地元のレコード店に注文したらあっさり入荷したのだが、セカンドアルバムはやはり手に入らなかった。
しかしあるところにはあるもので、都内の「新星堂」でダメ元で注文したら数日後、「入荷しました」と連絡があった。
しかしどうしても最後まで手に入らなかったのがファーストアルバム。どこに聞いてもこれだけは無理だった。

「今日歌っていたあの曲をもう一度聞くことはできないものか・・・」

そこでにわかに思いついたのが「ファンクラブ」だった。
当然そういう熱烈なファンたちは昔のも持ってるだろう。あるいは非売品をファン特典として売ってたりするかもしれない。
しかし当時のおれにコンサート会場でのファンクラブ入会受付の列に並ぶ度胸はさすがになかった。

「最後の手段はやっぱりファンクラブか・・・」
そもそも「ファンクラブ」という言葉の響きが良くない。どうしたってアイドルとその取り巻きのイメージしかない。そのイメージから言えば男性ミュージシャンのファンクラブに男が入会するなんてどう考えても気持ち悪い。

きくち寛コンサートツアー「唄は祈りになれ」in日仏会館①

きくち寛ファンクラブ

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