決戦の日

育児の部屋

「10月15日」この日をママ友たちの間では「決戦の日」と呼んでいるらしい。
幼稚園の願書配布日なのだ。
うちの妻もここ1ヶ月、しつこくおれに「10月15日だからね、キッ!」とことあるごとに言い続けていた。わが子はついこの間、3歳の誕生日を迎えたが、4月から「プレ保育」とかいって、週に1回、この幼稚園に通っている。当然入園は優先されるものだと考えていたが、そうではなく先着順だという。何のためのプレ保育だ。
おれも最初はなぜ願書配布日にこだわっているのか分からなかったのだが、ようするに願書は定員分しか配らないので、願書を受け取ることはそのまま入園が約束されたも同然なのだ。
願書配布は8時半と公示しているが、実際は徹夜組もいるので朝の5時ごろ行っても遅いらしい。
募集定員も明かされないので、とにかく早く並ぶしかない。これは毎年もめるそうだが、前にも幼稚園に問い合わせたら「8時半から配る」と言われて、その通り8時半に取りに行ったら「もう終了しました」と言われて激怒した親がいたらしい。
幼稚園側は菓子折りを持って謝罪に行ったらしいが、入園自体は許可されなかったそうだ。今回も「体育館は一晩中空けておきますが、何時から並べばいいとは、園としては言えない」という。だったら最初から抽選にすりゃあいいじゃん。

ママ友たちは
「何時じゃ遅いらしい」
「前回はこうだったらしい」
「いよいよだね」
「うちのパパは寝ないで行くそうです」

などとくだらない内容のメールをひっきりなしに回して盛り上がっていた。
さらに前日にはプレ保育に通っている家庭には「6時までには来てください」という連絡が入ったそうだ。しかし6時までに来れば間に合うという保証はもちろんしてくれない。
そして昨日というか今日、おれは深夜というか朝3時に起こされ、願書をもらうため3時半から幼稚園の体育館に並ばされたのだ。
「年中組と年少組があるから絶対間違えないでよ。年少のほうだからね」
と座布団とダウンのベンチコートとインスタントカフェオレ(おれはインスタントコーヒーが嫌いなのに!)の入ったポットを渡され、新聞もまだ届いていない夜中に車で幼稚園に向かった。

しかし幼稚園の駐車場は既に満車状態だった。
さすがに少しあせり、急いで体育館に行くと60~70人が既に並んでいた。
おれは「年中組み」と「年少組み」の列をしつこく確認し、列に加わった。
思ったほど寒くは無かったので、おれはモコモコのベンチコートを丸めて膝に置き、それを机代わりにして昨日買っておいた文庫本を読むことにした。
萩原浩とかいう作家の『あの日にドライブ』という本で、絶賛するようなPOPがつけられ平積みされていたのだ。しかしこの本、読んでるだけで気がめいってくるような物語だった。
「6時までに来い」ということは、8時半とは言いつつも6時に配る、というこだろう。
おれはひたすら待った。

朝が近づくにつれ、人も増えてきた。5時くらいには体育館に入りきれなくなってきた。と同時にかなり眠たくなってきた。

朝6時には配るという期待は見事に外れ、結局配られたのは8時半。つまりおれは5時間待ち続けたことになる。
おれは48番目だったから、わが子はめでたく入園権を確保できた。

おれが自慢気に願書を持ち帰ると、あれだけ大騒ぎしていた妻からなんのねぎらいの言葉も無い。
「おれは5時間も待ったんだぞ」
「何言ってんのよ、あたしなんか毎週(プレ保育の)送り迎えしてんじゃない!キッ」
こいつとはもうしばらく絶交だな。

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